アプリノミクスとは?

スマートフォンの醍醐味は、なんといってもアプリだ。前述の通り、スマートフォンはソフトウェアによる進化のパラダイムを切り開いたが、OSとともに開発者が提供するアプリによって、スマートフォンでできることが増え続けている。

AppleがiPhone 3Gをリリースした2008年からApp Storeを開設し、開発者に対してiPhone向けアプリの開発を促した。有料販売では販売価格の7割が開発者の元に残る非常に画期的な利益配分の仕組みも、開発競争を激化させた。このアプリプラットホームはGoogleやMicrosoftも用意しており、アプリ経済圏、いわば「アプリノミクス」が醸成され、膨大な数のアプリが今日も増え続けているのだ。

例えば、スマートフォンのカメラは現在も既に高性能になり、コンパクトデジタルカメラを持ち歩かなくても十分満足のいく写真が撮影できるようになった。同じ端末を使い続けている限り、カメラそのものの画素数などの性能は変わらない。

しかしInstagramやVSCO Camといったアプリを追加することで、より印象的な写真を仕上げることができるようになる。あるいはHorizonというビデオアプリを使うと、常に水平を保ったビデオをスマートフォンで撮影できるようになる。ハードは同じでも、アプリによって新しいことができるようになるのだ。

Instagramに投稿した写真。iPhoneのカメラの機能や共有の方法を、アプリが広げてくれる

iPhoneのタッチスクリーンを使って、ゲームや楽器のアプリはより直感的な楽しみ方ができるようになり、メモやアート系のアプリでは指先で手書きができるようになった。あるいはこの画面を自由にデザインして、複雑な機能をシンプルに使いこなすインターフェイスの進化もめざましい。アプリノミクスは、ユーザー体験というデザイン領域を身近なものにしてくれた。

なにより、我々が日常会話の中で、スマートフォンのアプリについて話題に挙がるようになったことが、アプリノミクス浸透の分かりやすいサインではないだろうか。パソコンの時代、例えばMicrosoft Wordや一太郎といったソフトが、普段の日常会話の「面白い話題」として挙がることはなかっただろう。

このことはアプリを使うユーザーの裾野を大きく広げていると同時に、スマートフォンが特別なものから共通言語へと変化していることの表れであると見ることができる。