VAIO株式会社が2014年7月1日にスタートし、約1カ月を経過しようとしている。従来1,100人規模で運営してきたソニーのVAIO事業は、新会社となり、240人体制へと縮小。だが、モノづくりに対する意識は、約15年前のVAIO事業開始当初を彷彿とさせるこだわりがみられる。

8月からは、ソニーブランドがはずれた「VAIO Pro 11/13」および「VAIO Fit 15E」の販売が開始され、いよいよ事業が本格的にスタートすることになる。VAIO マーケティング・セールス/商品企画担当の花里隆志執行役員に、VAIOの販売戦略およびマーケティング戦略について聞いた。

VAIO マーケティング・セールス/商品企画担当の花里隆志執行役員

*   *   *

――VAIO株式会社の設立以降、この1カ月間は、社内ではどんな取り組みをしていたのですか。

大きく2つの取り組みに集約されます。ひとつは、将来のプロダクトの方向性を決めるといった中長期的な視点での取り組み、もうひとつはソニーストアの受注状況の把握と、安曇野での生産体制の構築といった直近の業務における取り組み。これを並行的に進めています。

VAIOがBtoBを中心に展開していくなかで、そこでVAIOらしさをどう発揮するのか、どんなブランドにしていくか、そして、すでに将来の海外展開を視野に入れた検討もいまから少しずつ始めています。

仕事の量は変わりませんが、仕事の幅は大きく変化していますね。社員全員が複数の仕事をこなして、なんでもやろうとしている。本当に社内が生き生きしていますよ。私は、約15年前にVAIO事業がスタートした時から、この事業に関わっていますが、まるで当時のような雰囲気です。この1カ月は、あっという間に過ぎましたよ(笑)。

――240人という社員の規模は、経営層からみるとどんな感覚ですか。

コミュニケーションが非常に取りやすい、というのが大きなメリットですね。ただ、とにかく走りはじめたばかりの組織ですから、ルールが定まっていないところも多い(笑)。誰がどこまでの裁量を持っているのか、明確でないまま走り出している部分もありますからね。

ある時期が来ましたら、これはしっかり定義しなくてはなりませんが、まずはこの体制で走り出すことの方が大切だと思っています。

――最初の1年はどんなことを目指しますか。

足下のビジネスとしては、販売体制の構築に力を注いでいます。実際にVAIOブランドのPCが出荷開始となるのは8月上旬からとなりますが、それに向けての販売体制構築が直近の課題です。

流通に関しては、ソニーマーケティングが販売総代理店となり、法人向けには、ソニーマーケティングの法人営業部や、ディストリビュータを通じた全国代理店販売、ソニーストアを通じたBtoB販売などが、8月中旬以降にスタートします。

これまでソニーのVAIOをご愛顧いただいていたユーザーに対しても、新会社発足のご案内や商品案内などのメールをお送りし、新たなVAIOに対して、ご理解をいただくための活動を開始しています。一方で、BtoCにおいては、Web直販のソニーストアでの販売のほか、一部量販店での販売や、e-Sony Shopを通じた販売を開始します。

――新会社設立会見からVAIOブランドの製品の発売まで、1カ月かかった要因はなんでしょうか。

大きな要因としては、生産ラインの再構築があげられます。これまで通り、安曇野の生産拠点を利用するのですが、当社では「安曇野FINISH」と呼ぶように、ODMでの生産分を含めてすべての製品を安曇野で品質検査し、出荷判定を行うことになります。

これまではODMから直接市場に製品を流通していたわけですが、これを安曇野FINISHIが行える体制へ移行するのに時間がかかりました。システムもすべて入れ替えるわけですし、むしろ、オペレーションそのものを1から立ち上げることにも取り組んできたわけです。

まずは月2万台程度の生産規模になりますが、製造、設計に対しては、これまでの何倍も目を光らせていますよ。あわせて、修理もすべて安曇野で行う体制も構築しました。とにかく高い品質を維持するための体制づくりには力を注ぎました。

――最初の1年では、販売体制の構築以外にはどんなことに取り組みますか。

ブランドの再構築ですね。これは時間がかかるものですから、すでに今からスタートをしています。新会社設立と同時に、新たなブランドサイトを立ち上げ、これまでとは違う切り口で展開しています。

今の時点での反応は非常にいいですね。また、年度内には新たな製品を投入することになりますが、それによってどんなブランド価値を構築できるのか、そして、2015年度以降にはその価値観をどう高めていくのかといった準備も開始しています。

――東京オフィスを、東京・新橋に設置したわけですが、新橋は、どうもVAIOのイメージとあわない感じがしますが(笑)

社内では、青山や代官山という声もあったのですが、スタートアップの企業として、どこまで投資ができるのかといったことを考えた場合、最も手頃な物件が新橋にありました。とくに、新橋という場所にこだわったわけではありませんが、同じ建物に取引先でもあるフロンテッジが入居しており、話がしやすいという環境にもあります。話題の虎ノ門ヒルズにも近いですしね(笑)。

ただ、品川だけはやめようということは決めていました。ソニーから離れて、独立したイメージは大切だと思いましたから。品川だとどうしても独立したイメージがないですしね。

――VAIO株式会社では、まずは既存の「VAIO Pro 11/13」および「VAIO Fit 15E」に、取り扱いを限定しましたね。この理由はなんですか。

小さな規模でスタートするわけですから、製品は絞り込まなくてはならない。そのなかで、BtoB市場において、最も受け入れられ、実績を持っているVAIO Fit 15E、そして、昨年夏に投入して以来、BtoC市場でも高い人気を博したVAIO Pro 11/13を取り揃えることで、BtoCにもアプローチできると考えました。

――逆に、VAIO Duo 13、Fit Aシリーズ、Tap11/21といった製品を選択しなかった理由はなんですか。

これらの製品群は、新たな顧客層を開拓するといった狙いを持って販売したもので、今の新会社のリソースでは、ターゲットを広げることはできないと考えました。その結果、Fit 15Eなどの3製品に絞り込んだわけです。

――VAIO Duo 13のサーフスライダー方式や、Fit Aシリーズの2in1の形状などは、VAIO株式会社で継続的に生産することができるのでしょうか。

実際に出すかどうかは別にして、ソニーとの話し合いによっては製品化することは可能だと考えています。

ただ、私の個人的な印象なのですが、"Zシリーズ"のような製品を、多くのユーザーが望んでいるのではないかとも思っているんです。VAIOらしさという点では、ここだけは誰にも負けない、あるいはとにかくこだわりにこだわり抜いた機能を備えているというような一点突破の製品を新たに投入していきたい。量販店で価格競争に陥るような製品は出すつもりはありません。

将来的には、多くの人に使っていただけるような普及価格帯の製品を出す可能性がありますが、その場合でも、VAIOならではの一点突破の発想を盛り込んだものにしたいですね。

――BtoBに力を注ぐ上では、低価格の普及モデルのラインナップも必要ではないですか。

多くの方々がそう言いますが、私はそうした製品ラインナップが無くても、十分できると考えています。やはり、VAIOは「PCの本質+α」の製品だけで勝負したい。PCの本質とは、使う人に役立つツールであるということ。そして、そこに表には出てこないような遊び心が潜んだ部分に付加価値がある。

ソニー時代には、「よく遊び、よく学び、よく働く」というコンセプトを掲げましたが、VAIO株式会社が投入する新たなVAIOも、方向性は同じだと考えてもらっていいでしょうね。

ただ、過去15年を振り返ると、お客様の声を聞くというところが疎かになっていた反省があります。事業を開始した当初は、私も毎週のように量販店店頭に行き、とにかくお客様の声を聞いて商品企画や開発にフィードバックし、製品化に生かしました。

新たなVAIOでは、この精神を復活させたい。VAIOは新たなものを提案して、市場を引っ張っていくブランドである思われていますが、その側面は確かにあるものの、一方でお客様と一緒に製品を作っていくという側面も持っています。

今、自社サイトではメールアドレスを登録していただくだけという、なにも特典がないお客様登録を開始していますが(笑)、ここに登録をしていただける方々は、本当にVAIOを気にしていただいている方々だといえます。こうした方々とコミュニケーションを取ったり、SNSなどを利用した効率的なコミュニケーションを通じて、ユーザーにも製品づくりに参加してもらいたいと考えています。

――マーケティング戦略、あるいはブランド戦略のなかで、最もこだわっている点はなんですか。

一番のポイントは、お客様を失望させないということです。VAIOの製品を購入した人が品質不良にあわない、万が一、不良にあたってしまっても最善の対応をするというのは当然のことですし、購入する際にVAIOに期待する価値以上のものをしっかりと提案できるメーカーであることにこだわり続けたい。

ソニー時代のVAIOよりも、VAIO株式会社のVAIOになって良かったと思ってもらえる企業を目指していきます。それが我々が目指すところです。

――有難うございました。