日本マイクロソフトは6月9日、Microsoft AzureやOffice 365といった自社クラウドサービスの機能アップデートに関する説明会を開催した。各製品部門担当者が登壇し、Microsoftが過去に開催したイベントや「Office Blog」で発表した内容を改めて紹介したものだ。両者とも常に新しい機能が追加されるため、今後は数カ月ごとに新機能を総括した説明会を開催するという。

まずは各製品の概要から解説しよう。データセンターに設置したクラウドプラットホーム上で、アプリケーションデータをホスティングするMicrosoft Azure(旧Windows Azure)は、今後のクラウドコンピューティングの核となる存在だ。

Office 365は既存アプリケーションであるOfficeスイートを、月間や年間契約するクラウドサービスの1つ。元CEO(最高経営責任者)であるSteve Ballmer氏は当時、既存のデスクトップアプリとWeb上で動作するサービスをセットにした形態を「ソフトウェアプラスサービス」と称していたが、Office 365もソフトウェアプラスサービスに類する。

ただし、これらは主に企業向けとなるため(Office 365は個人向けエディションも用意されている)、ここでは個人から小規模法人ユーザー向けの情報をピックアップしたい。日本マイクロソフト オフィスビジネス本部Office 365プロダクトマネージャーの米田真一氏は、日経225銘柄企業の60パーセントが既にOffice 365を導入し、教育機関向けプランであるOffice 365 Educationの国内利用者数が170万人を突破したことをアピール。高等教育機関において「3人に1人」が利用していることになる。

日本国内で成長するOffice 365のシェア

このように、日本国内でも普及しつつあるOffice 365が、2014年初頭から今月5月までに発表/リリースした機能は全部で49種類だ。6つのフォーカスエリアに分類し、ハードウェアを指す「デバイス」のサポート、実際の使い勝手を改善する「エクスペリエンス」、情報共有の一種である「ソーシャル」系機能の追加や、メールに始まる「コミュニケーション」ロジックの改善、ビジネスインテリジェンスを共有する「インサイト」、そして管理・整理効率を向上させる「コントロール」に改善や新機能を加えている、と紹介した。

2014年前半だけで約50種類に及ぶ新機能の追加と、改善が行われた

2014年3月に開催したSharePoint Conference 2014と、同年4月開催のMicrosoft Exchange Conferenceからは、以下の新機能をピックアップ。まずは順番に紹介する。

「階層型アドレス帳」は、既にExchange Serverでサポートしていた機能だが、2014年2月からExchange Onlineでも利用可能になった。Active Directoryのグループ情報を元に階層構造を構成し、Outlookから利用できる。

Active Directory情報を元にした「階層型アドレス帳」。Outlookで使用可能

Exchange Onlineと連動するコミュニケーションツールとしては、OWA(Outlook Web Access)が用意されているが、「Mail Appsの拡張」によって、OutlookやOWAに対するさまざまなコントロールを追加可能にしたという。その一例としてデモンストレーションしたのが、OWAの「連絡先ビュー」だ。

メール送信頻度の高い上位10ユーザーが自動的に加わり、必然的によく連絡するユーザーを列挙することになる。このコントロールはカスタマイズ機能を用意していないため、特定のユーザーを追加することはできない。最大200ユーザーのデータを保持し、そこから10ユーザーをピックアップする仕組みだ。なお、現時点ではOWA特有の機能である。

Outlookに加わった「連絡先」。メール送信頻度の高い上位10ユーザーを自動列挙

OWAでメールを新規作成するとき、新たに「アプリ」というアイコンが加わった。以前も読み取り専用ボードで利用可能だったが、今回は編集ボードでも利用可能になった。また、アプリケーションはHTML5ベースで機能を拡張する仕組み。マルチデバイスを想定しているため、iPhoneなどでも同じUX(User Experience:ユーザーエクスペリエンス)で利用できるという。さらにここから、会議室の管理システムや前述の階層型アドレス帳を呼び出すことも可能になるそうだ。

メール作成画面に加わった「アプリ」。HTML5ベースの機能を呼び出せる

このロジックを利用したのが「My Templates」。定例文を挿入するシンプルなものだが、何百通ものメールを書くユーザーにとって欠かせない機能である。もともとはOWAで複数署名をサポートできないか、というフィードバックを元に実装したそうだ。こちらはOWAだけでなくOutlookでも利用可能となる。

デモンストレーションでは英文署名の挿入を行った。簡単なテンプレートを用意すれば、メール作成の手間を省ける

OWAに加わった機能としては、予定表の同時項目数が5つから10つに拡張した。こちらもユーザーフィードバックが多かった機能だという。デモンストレーションは省かれたが、他の共有した予定表をピン留めする機能や、キーワード検索機能も加わっている。

OWAで閲覧する予定表数は最大5つから10に拡張された

システム管理面では、「Office 365 Message Encryption」を紹介。米田氏は「IRM(Information Rights Management)に似ている」と前置きしながら、組織外のユーザーと暗号化メールを送受信できる点を強調した。Windows Azure IRMライセンスベースで動作し、Microsoftアカウントによる認証が必要となるが、安全なメールソリューションを実現できるという。

Windows Azure IRMやMicrosoftアカウントを用いて、社外メールの暗号化を実現する「Office 365 Message Encryption」

「Multi-Factor Authentication for Office 365 Account Sign-In」は、一般的に用いられつつある多要素認証をOffice 365に導入した新機能。例えば、パスワード入力後に自身の携帯電話へコードを自動送信し、そのコードを入力しないとサインインできないといった、複数の要素で認証処理を進めるというものだ。Windows Azure多要素認証が有名だが、Office 365はその簡易版を実装している。

Windows Azureで用いられていた多要素認証をOffice 365にも導入

この他にも、「Power Map for Excel」やExchange Onlineのメールボックスサイズ拡張など、いくつかの機能が紹介されたが、注目すべきは今月からサポートする新機能だ。一例を挙げると、「デバイスレポート」はOffice 365管理センターにOSやWebブラウザーのレポート情報を追加し、利用ユーザーが古いOSやWebブラウザーを使っていないか確認できる。

Office 365管理センターに加わったユーザーが使用するOS情報

Office 365管理センターからはWebブラウザーの比率

また、リリースした新機能を事前に把握したいというシステム管理者からのフィードバックを受け、大規模な変更は1年前に発表し、ロードマップは30~90日前に公開する。そして3週間前には、ブログやメッセージセンターで情報を公開。このような通知ポリシーを明確化したが、さらにオプトインすることで、標準リリースの2週間前に新機能を利用できる「先行リリース」を採用した。当初はExchange/SharePointを対象に、今月(2014年6月)から実施するという。

今後のOffice 365は新機能を「先行リリース」という通知ポリシーでリリースしていく

最後に、今年後半に実装予定の注目機能を紹介した。現在iOS向けにリリースしているOWAをAndroidに移植した「OWA for Android Phone」や、人と人がつながるネットワークを視覚化し、必要な情報を提示する「codename Oslo(オスロ) & Office Graph」などがある。また、これまでメールに添付していたファイルをOneDriveに自動アップロードし、TOおよびCCにアクセス権を付与する「OneDriveリンクとして送信」する機能を開発中とのことだ。

Android向けOWAとなる「OWA for Android Phone」も開発中

開発コード名レベルだが、他者との関係性や必要な情報を判別する「Oslo」と視覚化する「Office Graph」

添付ファイルをTOおよびCCにアクセス権を付与する「OneDriveリンクとして送信」

冒頭で述べたように、ソフトウェアプラスサービスに注力していたMicrosoftだが、新CEOとしてSatya Nadella(サティア・ナデラ)氏が就任したことで、今後はクラウド化の比率が高まることは明らかだ。今回紹介した新機能が、個人/小規模法人ユーザーにとって、今日明日すぐ必要になるものではない。だが、今後はデスクトップアプリにこだわることなく、個人/自社システムのクラウド化を現実的な選択肢として含めるべきだろう。

阿久津良和(Cactus)