「環太平洋の環境変動」の調査から生み出された新たな年代測定手法

そして各地域別の研究成果だが、まずは「環太平洋の環境変動」からお伝えする。環境史の調査では、東アジア(福島県・水月湖:画像6、北海道礼文島・久種湖:画像7)、東南アジア(カンボジア・トンレサップ湖:画像8)、メソアメリカ(グアテマラ・ペテシュバトゥン湖:画像9)、アンデス(ペルー・チチカカ湖:画像10)などにおいて堆積物の試料採取が行われた。特に、福井県水月湖の「年縞堆積物」の炭素14年代データから、過去5万2800年まで北半球の全陸域で適用できる年代測定の「物差し(較正曲線)」の確立に成功したことは考古学において世界的に大きな成果となった(画像11)。

年縞堆積物とは湖底で1年に1つ形成される、縞状の構造を持つ堆積物、いわば「土の年輪」のことだ。水月湖は世界にも例を見ない好条件がそろっており、その成果は2012年10月に科学誌Scienceに掲載されると同時に、日本において同誌主催で記者会見が行われ、その模様はすでに報告しているので、詳細を知りたい方はそちらを参照していただきたい。また、実際に2013年6月の放射性炭素国際会議で年代測定の世界標準「IntCal13」として認定され、こちらも詳細をお届けしているので、興味がある方はご覧いただきたい

この成果により、湖沼堆積物からの昔の地震や津波を以前よりも正確に特定できるよった。しかも、特に東日本大震災の影響もあって過去の大規模な地震に関する注目が集まっていることから、一般の関心も集めるようになってきているという。また、この年代測定の世界標準を基に、環太平洋の諸地域で精密な編年が打ち立てられた点も大きな成果としている。

画像6(左):水月湖上にプラットフォームを作り、年縞を採取するためにボーリング作業を行っている現場の模様。画像7(中):北海道礼文島・久種湖における雪の中での作業の様子。画像8(右):東南アジア最大の湖であるカンボジア・トンレサップ湖

画像9(左):グアテマラ・ペテシュバトゥン湖でのコア採取後の模様。マヤ文明のセイバル遺跡(後述)に近い湖である。画像10(中):ペルーのアンデスの山中にあるチチカカ湖でのコアを採取している最中の船上から撮影されたもの。画像11(右):水月湖で年縞は完全に連続した形で採取され、人類は過去5万2800年前まで北半球の全陸域で適用できる物差しを手に入れた