シャープは、同社電卓の第1号機である「CS-10A」を1964年3月18日に発表して以来、2014年3月18日でちょうど50年の節目を迎えた。ここでは、同社の電卓事業を振り返っていきたい。
CS-10Aは世界初のオールトランジスタ式卓上計算機で、価格は53万5,000円。当時の乗用車とほぼ同じ価格だった。この製品の開発は、1960年に若手技術者たちが、シャープの将来を考えてコンピュータや半導体の技術を手がけたいと提案し、その開発に向けて研究室を設置したのがスタート。最初は大型コンピュータの開発を目指したが、その後、「いつでも、どこでも、だれにでも」使える計算機の開発へと方針を変更。1964年に電卓の開発に成功した。
やむにやまれぬ方針転換で始まった電卓事業
実は、シャープが電卓事業へ針路を変更せざるを得なかった理由がある。当時、通産省が国家プロジェクトとして取り組んだ国産コンピュータの開発助成制度の中から、シャープが漏れてしまったのだ。100億円の予算を計上してスタートした超高性能電子計算機プロジェクトに選ばれたのは、富士通、日立、NEC、東芝、三菱電機、沖電気の6社。国家プロジェクトであるコンピュータ開発に乗り遅れたことで、シャープは電卓事業へ方針転換し、事業をスタートさせたのだ。
「コンペット」のブランドを冠したCS-10Aは、重量が25kg、高さが250mm。今の電卓に比べるとはるかに大型であったが、当時の電動計算機と同程度の価格、重量を維持しながら、計算スピードがケタ違いに速く、音も静かであることから大きな反響を呼び、まさにエポックメイキングな製品となった。
だが、価格設定からも一般消費者が購入できるものではなかった。当時社長だった佐伯旭氏は、「八百屋の奥さんにも使ってもらえるような電子ソロバンをめざせ」と号令をかけたという。
その号令に従うように、第1号電卓を発売して以降の進化は速かった。1967年には、MOS-IC化した「CS-16A」を発売。集積度の高いMOS-IC化したことで、トランジスタやダイオードなどの約3,500個の部品を59個のICに集約。本体の小型化、軽量化とともに信頼性も向上し、低価格化を実現した。価格は23万円と、第1号機の約半分になった。
1969年には、LSI化した電卓「QT-8D」を開発。ノースアメリカンロックウェル社と技術提携し、MOS-LSIを民生用製品として初めて採用した世界初のLSI電卓となった。価格も10万円を切る9万9,800円とした。この製品の成果は、翌年に奈良県天理に建設した半導体工場の稼動にもつながり、その後の同社電子デバイス事業の発展へとつながっている。