――うまい棒でできた仏像「うまい仏」をはじめ、「ポテコ」とダイヤモンドを組み合わせた「For the Love of Now」、魚拓のように大きなポテトチップスの"拓"をとる「Top of the world」など、スナック菓子を素材とした作品を多く制作されています。スナック菓子に着目されたきっかけは?

スナック菓子「ポテコ」に本物のダイヤモンドを埋め込んだ指輪「For the Love of Now」

食べ物は昔から興味のあるモチーフのひとつで、それ以前から意識して使うことも多かったです。先ほど言った事ともやや重複するんですが、スナック菓子という素材が僕の中では日常的であり、現代的だと思ったんです。美味しくて、でもちょっと体に悪くて、食べ物ではあるけれど、生きるために必須というわけではない嗜好品で。それでも、ちょっとポジティブなイメージをまとっている。そんなスナック菓子が、今の社会の雰囲気を表していると思ったんです。

――安価なスナックと"価値が高い"とされる物を組み合わせている作品が多く見られます。こういった試みの意図を教えてください。

価値のあるものや安価なもの、キレイな物や汚い物、楽しい事や悲しい事など、ありとあらゆる雑多で様々な物事の集合体が、社会を構成していると思うんです。それの抽象化された姿が、作品として表現されていると考えてもらえればと思います。

うまい棒などを片面に色がついた紙の上に置くことで、油により色が浮き出る作品「Beautiful Stain」

ポテトチップスを、割れた陶器などのように金継ぎして修復した「Embalming(Potato Chip)」

――これまでの作品はスナック菓子を扱った物が大半で、チョコレートやキャンディなどの甘いお菓子はほぼ登場しません。あえて題材にしない理由などあるのでしょうか。

飴やチョコレートは、そのものに可愛らしいイメージがあるためにあまり使っていません。木を彫ってお菓子そっくりに作った彫刻のひとつとしてポッキーを作ったことはありますが、それくらいでしょうか。

スナック菓子を使った作品は、他の作家があまり扱ってこなかったのも扱い始めた理由のひとつです。ただ、菓子の実物を使っていることで、(アートコレクターが)コレクション対象とするには抵抗が生まれるので、必然的に使われてこなかったのかもしれませんね(笑)

――ちなみに、スナック菓子を使った一連の作品は、ギャラリーで販売しているのでしょうか?また、時間が経過すると作品はどう変化するのでしょうか?

はい、出しています。「うまい仏」は、1体5,010円でアートフェアや個別のギャラリーなどで販売していました。10円はうまい棒の原価です。うまい棒は油をふんだんに使っているので、腐敗することはほぼないですね。だんだん油絵の具のような匂いになって、固くなっていきます。

インタビュー当日に持参してもらった「うまい仏」。実際に触ってみると、乾燥していて固く、油絵の具に似た匂いがした

アート作品となった瞬間に「賞味期限」がなくなるため、その欄にサインを入れている

――ほかの食べ物を使った作品はギャラリーに出していますか?

いくつか売れましたが、なかなか足は重いですね。ポテトチップスの魚拓は最終的な作品としての扱いは絵画になるためか、比較的よく出ています。本当は、こういった作品は写真に撮って記録として売るとか、ドローイングやコンセプトシートを売るやり方もあるんですけどね。

――Webサイトに掲載されている写真は十分作品として成立しうるクオリティだと思うのですが、写真としての販売はされていないのでしょうか?

はい、写真としては売っていません。この一連のスナック菓子を使った作品群については、作品の匂いと、物としての方が作品としては良いと思っているので。

――今後題材にしたいお菓子はありますか?

スナック菓子を題材にしたものはかなりやりつくしたと思っていて、今興味を持って取り組んでいるのは、自然を取り込むと言いますか、自分の力の及ばない何かを作品に取り入れていくようなものを意識して作っています。また、過去作の週刊漫画雑誌に植物を生やして育てる「まんが農業」もその試みのひとつです。

――「まんが農業」はビジュアルのインパクトが強い作品ですが、どうやって制作しているのでしょうか?

まず最初に漫画を読んで、面白いと思ったページに植物でしおりをしていくような感じですね。漫画雑誌を濡らして、貝割れ大根などスプラウト系の発芽した種を直接くっつけています。水やりはしますが、植えた種が育つか育たないか、というところは自然に任せています。

週刊少年誌に種を植え、芽を生やす「まんが農業」

――かなりシンプルなんですね。それだけで写真のように育つものなのでしょうか?

意外に発芽率は高いですよ。この作品は、「面白いと思った感情と水によって植物が育った」というイメージの具現化を見せたいと思って作ったんです。これまでにオーストラリアやニュージーランド、京都国際マンガミュージアムなどに展示しました。

――「まんが農業」をはじめ、河地さんのWebサイトに掲載されている作品写真には、作品のそばに子どもがいることが多いですね。

確かにそう言われてみると、僕の作品には子どもにとっても分かりやすい物が多いですね。知識がなくても見た目だけで楽しめるということは大切だと思っているので、そこは意識しています。そのわかりやすさがあったので、メディアでも取り上げていただくことが多くなったのだと思います。

ただ、最近はそういった"わかりやすさ"をちょっと抑えていこうと思っていて。それは、ビジュアルを見た段階で、思考が停止してしまう可能性があると感じるからです。例えば「うまい棒の仏像、面白いね!」と思っていただけるのはいいのですが、ビジュアルのその先にある意味をあまり想像しなくなってしまうのかな、と。特に「うまい仏」に関しては、いわゆる「おもしろ枠」で語られることが多いので、見ている人が「何だろう?」とのぞき込んでくれるような感覚も必要だなと考えています。

――私も取材をお願いしている側ではありますが、これまで受けてきたご取材はやはり「うまい仏」に対する物が多いのでしょうか?

そうです。2010年に取材を受けたWebニュースの記事がmixiニュースでも配信され、それがメディアに取り上げられるきっかけになりました。それ以降、テレビ制作会社からもオファーが少しずつ入り始めました。

「うまい仏」はテレビ番組の取材や百貨店での展示など、ギャラリーのような場以外での露出も多い作品だ

「スナック菓子をアートにしました」みたいな言われ方・取り上げられ方が多いのですが、それだけで完結させたくはないです。ただ、コンセプチュアルなアートが一般的に知られていないので、こういった反応になるのは仕方ない部分があると思っています。作品が世に広く知られて行くというのはありがたいのですが、現代美術のシーンからも知られたいというところがありますね。

――アート業界の人たちは、「うまい仏」にどんな反応をしていましたか?

おおむね「面白い」とは言って頂いています。

――現在開催中の「3331 Art Fair」では何を出展されているのでしょうか?

山の稜線や景色の写真に五線を引き、音階に見立てて採譜したものを出品しています。楽譜の体裁をとったドローイング作品で、ドイツ・バイエルン地方から臨むアルペン山脈、サンシャイン60から臨む新宿、横たわる女体のラインを五線譜上の音符としてトレースしています。

note drawing "bayerische alpen"

新宿

このほか、3月28日まで北海道・札幌市内で開催されている「500m美術館Vol.10 500メーターズプロジェクト001「Re:送っていただけませんか?」に出展しているもので、札幌の市内から見える山の稜線を写真に撮り、そこに五線を引き、稜線を音階に見立て音楽として奏でる作品もあります。展覧会の場所が北海道なので、アイヌの民族楽器を使って、稜線から作った音階を奏でています。

――最後に、河地さんが制作において心がけていらっしゃることをお教えいただけますか?

「普遍的な問い」でしょうか。なぜ生きているのか、どこから来たのか、そういった事柄に対して言及し、シンプルな感情を呼び起こさせるような作品を作っていけたらと考えています。

イメージとしては、フィルター的なものでありたいと思っています。作品そのものが答えではなくて、その先や周辺にある現実を見るためのフィルターとして、作品が機能してくれたらいいかなと思っています。

――ありがとうございました。

■河内氏の出展予定イベント

~3月16日:
「3331 Art Fair」
(会場:東京都・秋葉原「3331 Arts Chiyoda」)

~3月28日:
「500m美術館Vol.10 500メーターズプロジェクト001「Re:送っていただけませんか?」
(会場:北海道・札幌市「札幌大通地下ギャラリー 500m美術館」)

3月29日~30日:
「Young Artist HIGASHIOMIYA 2014」
(会場:埼玉県・東大宮駅西口近辺「JAさいたま 原際公園 東大宮コミュニティセンター」)