CSRという企業をご存じだろうか? 1999年設立のファブレス半導体メーカーで、Bluetoothなど無線技術で著名な企業だ。英ケンブリッジに本社を置いており、モバイルプロセッサには欠かせない存在となったARMと近しい関係にある。今回、同社会長のRon Mackintosh氏とCEOのJoep van Beurden氏が来日し、同社の最新戦略と業界の動向についてを語った。

CSR会長のRon Mackintosh氏(左)とCEOのJoep van Beurden氏(右)

前述のように、同社はもともとBluetooth技術に特化し、そのCMOS化技術のスペシャリストとして市場でのプレゼンスを獲得していた経緯がある。市場の拡大、特に携帯電話やスマートフォン、そして対応周辺機器への技術搭載で売上を伸ばしてきたが、昨今の機器のコモディティ化や一部ベンダーによるシェア寡占状態が確立し、ハンドセット市場での売上比率はしだいに減少しつつある。一方でGPS技術の強化や、イメージングプロセッサ開発の米Zoran買収などを経てポートフォリオを拡充しつつあり、対応市場もまんべんなく拡散しつつある。同社は成長市場として「Voice&Music」「Automotive」「Imaging」「Bluetooth Smart」「Location」の5分野を挙げているが、特に台数の伸び率が高く、成長の見込める「音楽周辺機器」や「屋内位置情報システム」に注力しているようだ。

CSRが目指す今後の5つの成長分野。Bluetooth一辺倒だった5年前に比べ、現在では買収などを経てポートフォリオのバランスが取られつつある

その中でも特に注目されるのが屋内での位置情報検出システムだ。GPS、3G、Wi-Fiの3種類の技術を組み合わせ、素早く位置情報を検出するA-GPSはすでにメジャーな存在となっているが、GPSの通じない屋内向けの位置情報システムはいまだ未知の分野だ。Googleなどを始めとする大手ベンダーらは屋内でのマッピング技術を開発し、さまざまなビルや商業施設の位置情報検出システム構築に力を注いでいるが、まだ一般向けの商用化は進んでおらず手探り状態が進んでいる。CSRではSiRFusionという複数の技術を組み合わせた位置情報検出のチップソリューションを開発しており、これを大々的にアピールしている。紹介された例では、東京駅八重洲地下街で同じルートを3回通過し、それぞれのマッピングがほぼ同じ軌跡であることで、その正確さを訴求している。現在はWi-Fiの信号強度を中心に検出を行っているが、これにBluetooth Smartのビーコンを組み合わせることでより誤差を縮めることが可能だということだ。

インドア・ロケーションサービスにおいて、既存のインフラのみの場合と、新たにインドア・マッピングを意識したインフラ作りの2つのアプローチがある。信号強度の検出とデータベースマッチングで屋内の位置を判定するのはどちらも同じ

SiRFusionの位置情報検出システムでは、Wi-Fi、Bluetooth、GPS、MEMSといった既存技術と情報を組み合わせ、単一チップで位置情報の計算が行える環境を提供する

東京駅八重洲地下街での実験の様子。同じ道を3回通過してみたところ、ほぼ同じ軌跡でのマッピングが行われており、それだけ位置情報検出が正確であることを意味している

この検出システムの応用範囲は広く、前述のような屋内位置測定のほか、GPSでも測定しにくいビルの谷間等での車載向け位置情報システム、さらにはBluetooth Smartを組み合わせたウェアラブル機器の位置情報トラッキングやジオ・フェンシング(相対的な距離を測る仕組み)等、多くの分野での拡大が見込まれている。

屋内位置情報検出のアプリケーション例。スマートフォンなどでの地図情報への投影だけでなく、GPSの誤検出が多いビルの谷間など自動車などが屋外での位置情報測定を行うケースだったり、Bluetooth Smartなどの技術を使っているウェアラブル機器が対向となる端末との距離を測る仕組みだったりと(例えば盗難防止のために距離が離れたときにアラームを鳴らすなど)、さまざまな応用例が考えられる

またオーディオ分野でのBluetooth活用にも期待を寄せる。ヘッドフォンやマイクだけでなく、最近では無線を使ったコンテンツ転送やスピーカーシステムなど、無線利用を前提としたユースケースが増えている。CSRでは、こうしたパーソナルなシステムからハイエンドの世界まで、オーディオ機器メーカーが望む細かいニーズに対して幅広いIPを提示することで応えることが可能であり、これが他社に比べての強みだとしている。

最近需要の増えているのがオーディオ関連。パーソナルタイプと、複数人で共有するシェアードタイプのハイエンド機器があるが、いずれのニーズもすべて賄えるだけのIPを持っており、顧客の細かいニーズに応えられるのがCSRの強みだという

このほか、Bluetooth Smart(BLE)や、いま流行のInternet of Things (IoT)に関する言及も行われている。2つの技術分野に共通するのは、これまでの機器に比べても技術が組み込まれるデバイスの台数の桁が異なってくる点で、もしうまく市場が立ち上がれば大きなビジネスチャンスとして跳ね返ってくる。

いま流行の「Internet of Things (IoT)」に関する取り組みも。IoTの機器メーカーや部品メーカーにとってのメリットは、とにかく台数ベースが従来の機器と桁が異なっている点にある

CSRでは以前よりBluetoothに対する強みを持っており、Bluetooth Smartの世界でもまた、その強みを活かせるとの考えだ。以前にBluetooth SIGでは次期規格のBluetooth 4.1について「IoT」を見据えたものだとの見解を語っていたが、van Beurden氏によれば5.0以降の将来向け規格に向けては、1km離れた拠点間でのBluetoothによる低速度の長距離通信実験も行われているなど、従来の近距離通信にとらわれない、さまざまな応用分野を模索している様子がうかがえる。

IoTなど、今後組み込み分野での無線技術の核となりそうなのがBluetooth Smart。前述の屋内位置検出技術と合わせ、今後の大きな成長が見込まれる