米Intelは10日(現地時間)、米国のサンフランシスコで、開発者向けイベント「Intel Developer Forum」(IDF)を開催した。IDFは毎年開催されているイベントで、今年は12日まで基調講演をはじめとして、開発者向けのテクニカルセッションが催される。

かつては米国で春と秋の年に2回、加えて日本を含む数カ国でも開催していた。ここ数年は米国と中国で年1度ずつという形をとっている。IntelのCPUの開発がTick-Tockパターンを採用し、アーキテクチャ更新と製造プロセスの更新が毎年交互に行われるようになってから、現在の形式が定着した感じだ。

IntelのCEOであるBrian M. Krzanich氏

今回のIDFは2013年5月にCEOに就任したBrian M. Krzanich氏のデビューでもある。基調講演は、同氏と新たに社長に就任したRenee J. James氏が行った。プレスブリーフィングなどに登場する役員の顔ぶれをみても、Intelが世代交代した印象を受ける。

かつてIDFはIntel本社に近いサンノゼで開催されていたが、当時のIDFに出ていた役員はもう誰も今回のIDFには出ておらず、新しい顔が並んだ。Krzanich氏にしても、Intel入社が1982年というからもう25年も勤めているのだが、IDFに登場するのは今年が初めてだ。Renee James氏は、ソフトウェアの担当として数年前からIDFやプレス発表などに登場していたものの、今回は、社長という立場での参加である。

ちなみに、これまでのIntelでは、CEOと社長は同一人物が兼ねていたのだが、今年5月からはこの2人がそれぞれの役職についた。1人で兼務するのは荷が重いのか、それとも、権力抗争の結果なのかはわからないが、強力なリーダーシップでIntelを引っ張っていくという形態から、大企業的にそれぞれの専門分野でがんばりましょうという形態になったように見える。そういえば、AppleもCEOが代わり、Microsoftもバルマー氏が引退を示唆した。PC業界全体が世代交代の時代に入ったといえるだろう。

昨年もそうだったが、今年も同時期にAppleが新製品の発表を行っている。AppleはMacにIntelのチップを採用するものの、iPhoneやiPadといった現在の主力製品はすべてARM系プロセッサを採用している。AMDもARM系プロセッサの開発を始めており、CPUといえばIntelという時代ではなくなった。

基調講演からわかるIntelの方向性は、大きくSoCに着目したということだ。これまでIntelは、PC向けのCPUやチップセット、リファレンスデザインなどを提供し、システムの「ビルディング・ブロック」を担う企業だった。PCを開発する企業を助け、PCの普及に努力するというのが基本スタンスだった。

しかし、スマートフォン、タブレットの普及は著しく、急速に大きな市場に成長した。もちろん、サーバやソフトウェア開発のためのPCなどインフラ的な部分におけるIntelのプレゼンスは変わらないものの、ARM系デバイスが広く普及し、中には、PCは不要という主張まで現われた。

インターネットの進展とともに、WebやメールのためのデバイスとしてPCが普及したものの、こうした「カジュアル」な利用については、スマートフォンやタブレットで十分というユーザーが増えてきたのも事実。これを「PCの衰退」と表現するメディアもある。そんな中で、Intelは、ARMなどと同じくSoCに大きく舵を切ったというのが今回の基調講演の印象だ。

Krzanich氏は、現在のコンピュータの利用は、「個人化」と「接続性」にあると分析する。これまでに比べて、スマートフォンやタブレットなどの個人が利用する通信可能な機器が増えていき、これをサーバなどが支えるという構造になってきたとする。

コンピューティングは、「個人的」になり、「接続」が必須になると分析

今後のターゲットは、CPUのみではなくシステムを含むSoCになるとKrzanich氏は述べる

そこに対してのIntelの解答は、それぞれの分野に強力な製品を投入するというものだ。そしてIntelは、サーバ、PC、タブレット、スマートフォン、さらに小型のデバイス向けに製品を用意した。

インテルの戦略は、各分野に強力な製品を投入すること

Intelは、CPU処理能力の高さが求められるサーバ系では、Ivy BridgeベースのXeon、より省電力やI/Oインテンショナルなサーバ、ネットワーク機器向けSoCにはAtom C2000系列を投入する。

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インテルはデータセンター(サーバ)を加速。ラック型やSDIに注目しているという

またPC向けには、業界最新の14nmプロセスで製造を行うBroadwellを投入する予定だ。Intelは、Tick-Tockパターンを採用して以来、それまでの業界の標準では3年周期だった製造プロセスの更新を2年周期とした。このため、現状ではCPUに関してはIntelのみが最新のプロセスを利用できる状態になっている。

PCに対しては、さまざまな「革新」を提供

もちろん、他社、特にARMなどのSoCの製造を請け負うファウンダリーも追従しているが、Intelほど計画どおりに進んでいるとは限らず、20/22nmプロセスへの移行が遅れつつある。このために他社のSoCのほとんどが28nm(Intelだと32nmに相当)のままだ。このタイミングでは、Broadwellというよりも、14nmプロセスでの製造が可能だということがIntelの主張するポイントだ。

Broadwellは、世界初の14nmのSoCであるとKrzanich氏は述べた

Krzanich氏は、14nmでのBroadwellの製造を今年末には開始するという。搭載製品の登場は2014年になる予定だが、14nmの製造プロセスへの移行を開始し、量産を開始できるのはIntelだけだ。

Broadwellが搭載されたノートPCを公開。ただしベンチマークなどは無し

微細化がすすめば、同じ面積により多くのトランジスタを集積できるため、ダイサイズが小さくなり、コストが下がるほか、前プロセスと同程度のダイサイズならば、コア数を増やすことも可能になる。AMDも健闘はしているが、少なくともPC用プロセッサでは、Intelが製造プロセスで1段階先行している状態だ。

ところがこれ以外の分野になると、全般的にはARM系が優勢で、特にスマートフォンやタブレットといった消費電力が問題になるような小型の製品向けでは、Intelも挑戦者になるしかない状態だ。しかし、その準備は進んでおり、Clover Trail+のスマートフォンも登場しはじめた。

Intelは、ここに20nmで製造するBay Trail、サーバ向けのAtom C2000などを投入する。Atom系は、以前よりSoC的な性格を強めており、Intelとしてはスマートフォン、タブレットの市場に参入を果たしたといっていいだろう。

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タブレット分野には、AtomだけでなぐCoreプロセッサも提供。オペレーティングシステムには、WindowsとAndroidが利用可能だという

Krzanich氏のスピーチを聞くに、Intelは、タブレットをスマートフォンとは別の独立した分野として捉えているようだ。当初のAtomは、スマートフォン用とネットブック、MID(Mobile Internet Device)に提供していたが、MIDやネットブックが衰退し、新たに立ち上がってきたタブレットを重要な分野として認知した。タブレットに対して、Atomに加えて、Haswellで実現した低消費電力によってIntel Coreプロセッサの投入が可能になったことも大きい。

Krzanich氏は、タブレットでは、顧客に「選択肢」を提供するという。CPUではAtomとCoreプロセッサ、OSではWindowsとAndroidという選択肢だ。ただ、Androidは、CPUへの最適化作業が必要で、Windowsのように新しいバージョンができたからといって、すぐに製品が作れるわけでもない。しかし、スマートフォンに加えタブレットでもIntel CPU向けの最適化を行い、顧客に提供するようだ。

デモでは、スマートフォン用の次世代AtomであるMerrifieldを搭載したプロトタイプを見せ、LTEモデムのデモを行った。Intelは、ドイツInfinionのモデムビジネスを買収しており、すでにモバイルネットワークモデムのメーカーとして認知されている。現在では、LTE-Advanceに対応したモデムを開発中だという。

次世代のMerrifieldを搭載したプロトタイプを公開

LTE-Advanceのデモ。複数の搬送波を使うことで高速転送が可能になる

さらに、スマートフォンなどよりも小さなデバイス向けに「Quark」シリーズを投入する。これは、Atomよりも小さく、消費電力を抑えたプロセッサで、さまざまな企業がSoCを開発するベースとなるものだ。

Quarkファミリを新規に投入。IOTやウェアラブルコンピュータに対応するという

「論理合成が可能」といった表現があり、他社を含めたSoC開発の可能性を感じさせるものの、具体的なやり方や製造方法などについての言及はなく、とりあえず、小さな機器に利用できるSoCを作って見せたという感じではあるが、Quarkというブランドを立ち上げ、本格的にビジネスを推進する予定だという。

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Krzanich氏のスピーチは時間的には比較的短く、駆け足で方向性を示した感じだ。その後を引き継いだのは、社長となったRenee James氏。同氏のスピーチは、Krzanich氏が示した方向の事例などを示すもので、具体的な製品の発表ではなかった。Bay Trailの概要などは、11日(現地時間)の基調講演で紹介する予定だという。

Krzanich氏の講演のあとを引き継いだRenee James氏

現在は、新しく統合されたコンピューティングの時代なのだと主張。このあと、いくつかのデモを行った