まとめて解説など

ということで一通り説明したところで、もう少し解説しておきたいと思う。従来、ネットワークサービスはIntelが提供するサーバやらなにやらにストレージをつけ、更に様々なネットワークアプライアンスで構成している。Intelはこれを全て、IAで実現することを目論んでいる。この流れの追い風にあたるのがSDNであり、必ずしも専用ハードウェアを使わなくても複雑なネットワーク処理を実現できる兆しが見えてきた。まぁSDNというかOpenFlowそのものが順風満帆とは言いがたいとはいえ、業界としては明らかにそちらの方向に向かっている。

これはIntelにとって好ましい方向性である。例えば汎用の構成を用意しておき、ソフトウェアを入れ替えるだけでぱっとサーバにもルータにもなるという仕組みは、柔軟性が高いとアピールもできるし、リソースの有効活用にもなる。今回冒頭で述べられたSDIの骨子は、このDPDKとかOpen Network Platform Switchにあると考えて良いだろう。

これを直接支える黒子がWind Riverである。同社はOSだけでなく、OpenFlowやOpen vSwitchのstack、Network Management Softwareなど、このSDIを支えるべきソフトウェアを全て提供している。Wind Riverがなければ、そもそもSDIの構想が成立しなかっただろう。

一方SDIを側面から支えるのはSiPhの進化である。やっとまともに使える製品レベルのものが出来たという話であるが、そうは言ってもコンシューマ向けにはまだ高価格だし、そもそも今のコンシューマはこんな広帯域なInterconnectは必要ない。Rack向けに提供するというのは、Initial Deploymentには最適ではないかと思うし、これによってSiPhによる囲い込みが出来た事になる。これはAMDが買収したSeaMicroのFreedom Fabricに対する良い競合技術になり得るだろう。

ところでFreedom Fabricに対抗するためにはFabric Switchが重要なのは言うまでもない。これにあたる部分が、今回講演ではPhoto57で一瞬名前が出た、Fulcrum Microsystemsの持つSwitchである。元々Fulcrumは10/40Gbps向けSwitchを手がけているベンダーであり、Intelが2011年7月に買収したことで現在は同社の傘下にある。このSwitchを生かそうとすると、当然SiPhはEthernetを通すようにしないといけない。Light Peakではまずいわけである。

こうした要素の最後のキーが、22nm世代のAvoton/RangeleyやHaswell、そして14nm世代のBroadwellやDenvertonである。とにかく高密度/低価格を実現するためには、既存の消費電力の高いXeonでは不適当であり、より消費電力を下げたものが必要になる。これが出揃ったことで、Intelは次世代サーバ向けに向けた武器が一通りそろった事になる。

では何でこんな武器が必要になったか? といえば、それはServer Workloadの変化である。これまでサーバに求められてきたのは、性能をスケールアップできることだった。ハードウェア構成で言えば密結合のクラスタであり、それに向けて最大8Pもの構成がとれるXeonをラインナップしてきたわけだ。ところがGoogleやAmazonなどから始まり、Cloudという形で生まれてきた新しいワークロードは、もはやスケールアップ性は必要なく、代わりにスケールアウト性を強く求められるようになった。Googleなど良い例だが、ここで使われているサーバはそれほど高性能ではない。その代わり台数が100万台のオーダーに達するといわれている。これを扱うのは、同社が開発した様々なミドルウェアであり、既存のSQLデータベースとかアプリケーションサーバと全く互換性はないが、台数を増やすとそれだけ性能が上がるという、スケールアップの方向では頭打ちだった性能問題を見事に打ち破る事に成功した。結果、Facebookしかり、Twitterしかりで、大規模なデータを扱うメーカーはいずれも同じような方向性に突き進んでいる。

この結果、従来ハイエンドにあったXeon E7はおろか、Xeon E5ですら価格と消費電力の両面で高いといわれるようになっており、実際Xeon E3グレードの製品がむしろ大量に出ているのが実情である。こうしたスケールアウト方式の場合、ランニングコストの最大のものが電力費であり、これはサーバの消費電力+サーバを冷却する費用が馬鹿にならないのは御存知の通り。ところがIntelはこのマーケットに有効な武器をこれまで持っていなかった。こうした動きに早くから対応していたのはARMで、実際Cortex-A15の発表の際にサーバ用途を力説していたのはまさしくこの用途である。これに乗っかったのがAMDであり、Seatleというコード名のCortex-A50ベースOpteronを来年投入しようとしている。Intelもこうした波に乗り遅れるわけにはいかない、というのが実情であろう。

勿論、Photo03にもあるように、全体から見ればこうしたマーケットはまだ少数である。が、既存のマーケットは今後それほど大きな伸びは期待できないだろう。というよりも、こちらのマーケットの伸びの方が大きすぎるというべきか。AMDがBulldozer/Piledriverで既存のマーケットを失った結果として、このマーケットを捨てて新興マーケットにかける決断をしたのは当然であるが、だからといってIntelも座して新興マーケットを失うわけにも行かない。ということで、今年から来年にかけて、新しいマーケットの主導権争いが活発になるのは目に見えているわけであるが、今回のイベントはその主導権争いに参画するぞ、というIntelの決意表明だった、と考えればわかりやすいと思う。