コンピューターというハードウェアを活用するために欠かせないのが、OS(Operating System:オペレーティングシステム)の存在です。我々が何げなく使っているWindows OSやOS XだけがOSではありません。世界には栄枯盛衰のごとく消えていったOSや、冒険心をふんだんに持ちながら、ひのき舞台に上ることなく忘れられてしまったOSが数多く存在するのをご存じでしょうか。「世界のOSたち」では、今でもその存在を確認できる世界各国のOSに注目し、その特徴を紹介します。前回に続き、日本国内でも400万本、全世界で1億本を出荷したOS「Windows 3.1」の特徴を追います。

Windows 3.1で初搭載されたTrueType

Windows 3.1はバージョン名からもわかるようにWindows 3.0をベースに各所を改良したOSです。前回述べたようにIntel 8086相当のプロセッサーを使用するリアルモードを廃止し、Intel 80286(Windows/286)向けとなるスタンダードモード、Intel 80386(Windows/386)以上はエンハンスドモードのみとなりました。

これはWindows 3.1全体のパフォーマンスを向上させると同時に、ソフトウェア開発者の負担軽減につながります。特にエンハンスドモードでは、32ビットディスクアクセスが利用可能でしたので、ディスクI/Oが絡むパフォーマンスの変化はユーザーに恩恵を与えました。さらに日本語版Windows 3.1では、Intel 80286のサポートも廃止。起動時のオプション設定でスタンダードモードとエンハンスドモードの選択が可能でした。ちなみにオプションを付けずに起動プログラムである「win.com」を実行しますと、エンハンスドモードが選択されます(図01~02)。

図01 「win.com」の起動オプション。「/3」「/S」各オプションでエンハンスド/スタンダードモードの選択が可能でした

図02 日本語版Windows 3.1のデスクトップ画面。Windows 3.0と同じく、主な操作は「プログラムマネージャ」と「ファイルマネージャ」で行います

GUIはWindows 3.0を踏襲し、マルチタスクもノンプリエンプティブマルチタスクをそのまま受け継ぎましたが、特徴的なのはアウトラインフォントの一種であるTrueTypeを標準搭載した点でしょう。そもそもページ記述言語として発表されたPostScript(ポストスクリプト)が、Adobe Systemsの屋台骨となり、開発者であるJohn Warnock(ジョン・ワーノック)氏の存在はあまりにも有名です。初期Macintoshの販売不振を救った個人向けレーザープリンターである「LaserWriter(レーザーライター)」にもPostScriptは組み込まれました。

1985年当時、Apple Computerの首脳陣はAdobe SystemsにMac OS用向けのPostScript拡張の開発を申し込みましたが、Warnock氏はけんもほろろに断ったそうです。それから3年後となる1988年にはBill Gates(ビル・ゲイツ)氏も同社を訪れ、Windows 3.0向けのPostScriptとフォントを採用したいと提案したものの結果は同じ。このような背景から、当時のMicrosoftとApple Computerは対Adobe Systemsの提携を締結したと発表。1989年9月頃の話ですが、その翌年に発表されたのがTrueTyepです(図03)。

図03 日本語版Windows 3.1の「フォント」。TrueTypeに関する設定項目も用意されていました

TrueTyepフォントはスケーラブル(線の位置や形、長さなどで文字を構成するため、拡大縮小しても崩れない)であるため、それまでのビットマップフォントとは段違いの表現力を持つようになりました。また、ビットマップフォントを内蔵できるため、さまざまなシーンで利用できるのは大きなアドバンテージです。前段の提携締結前にAdobe SystemsはWindows OSやMac OS上でPostScriptフォントの表示や管理が可能な「ATM(Adobe Type Manager)」を発表(図04)。

図04 Windows 95向けの「ATM(Adobe Type Manager」。無償版の「Lite」と有料版の「Delux」がリリースされていました

開発が始まったのは発表後という体たらくでしたが、コンピューター上でDTP(デスクトップパブリッシング)を行うユーザーには必要なアプリケーションとなりました。その後、MicrosoftとAdobe Systemsは和解し、両社の共同開発およびApple Computerが賛同する形で、PostScriptフォントデータを内包するOpenType(オープンタイプ)に引き継がれています。

Windows 3.0では、オプション扱いだったマルチメディア機能も標準搭載されるようになりました。正しくはWindows 3.0 with Multimedia Extensionsの機能を内包した形となりますが、この頃からPC/AT互換機でもサウンドカードの重要性が増すことになり、一部のマニア以外もサウンドカードを購入するようになります。筆者も当時のデファクトスタンダードと言われたSB16(Sound Blaster 16)を購入し、PCゲームなどを楽しんでいました。

一方でGravis社製のサウンドカードであるGUS(Gravis UltraSound)を欲して秋葉原を歩いたような記憶もかすかながらに覚えています。当時はSB16をサポートせずに、GUSを搭載したコンピューターでしか動作しないメガデモも少なくありませんでした。ユーザーの中には使用アドレスを変更するなどして両者を併用する強者もいたそうですが、筆者は最後までGUSを入手していないため、真偽の程はわかりません(メガデモについては以前の記事をご覧ください)。

また、当時はインターネットではなくパソコン通信が主流でしたが、Windows 3.1上で動作するパソコン通信ソフトは、文字の取りこぼしが激しく利用レベルに達しているものは皆無でした(もしくは筆者が出会うことがありませんでした)。そのため、パソコン通信を行うにはWindows 3.1を終了し、MS-DOS上でパソコン通信ソフトを起動するという今にして思えば面倒な手順を踏んでいましたが、その中でも利用できたのは「秀Term」ぐらいでしょうか(図05)。

図05 斎藤秀夫氏らが開発したWindows 3.1用パソコン通信ソフト「秀Term」

斎藤秀夫氏らが開発したシェアウェアで、現在もダウンロード可能ですが、筆者が当時使っていたPC/AT互換機では、14,400bps対応モデルでは文字を取りこぼしてしまうため、9,600bpsで接続していました。この他にも江口亨氏が作成したアイコンの自動整列ツール「アイコン警察」などにお世話になり、筆者もMS-DOS環境から自然にWindows OS環境に移行したように記憶しています。