Windows 8の有用性を左右する、と述べても過言ではないWindowsストアアプリの存在。世界中の開発者が新しいマーケットとして着目すると同時に、エンドユーザーとしては、Windows 8を便利にするWindowsストアアプリはどれか、と注目していることだろう。そこで国内外を問わず、利便性の高いWindowsストアアプリをピックアップし、紹介していく。今回はMicrosoftの検索サイト「Bing」が提供するサービスの一つ「Bing Translator」のWindowsストアアプリ版だ。

Webカメラに映し出された映像を即時翻訳

世界に存在する言語の数は、千数百とも数千とも言われている。旧約聖書によると、天まで届くバベルの塔を建てようとする人々に苛立ち、言葉が原因であると考えた神が、人々の言語を混乱させて世界各地へ散らせたという。バベルの塔の話ではないが、他国の人々と話す際には異なる言語をコントロールしなければならないのは事実である。

コンピューターの進化と共に研究され続けてきたのが、言語を機械的に変換する「機械翻訳」だ。概念はコンピューターが普及する以前から存在しているが、コンピューターの機能向上と共に成長する分野の一つ。サーバー上に機械翻訳エンジンを用意し、ほぼ自動的に機械翻訳を行う翻訳サイトは多数存在するものの、比較的マイナーな言語に類する日本語の場合、実用性に達したとは言い難い。

現時点でも無償・有償の翻訳ツールや翻訳サイトが用意されているが、今回取り上げる「Bing Translator」は、Microsoftが提供する同名のWebサービスをWindowsストアアプリにし、モダンUI(ユーザーインターフェース)で操作できるというもの。そもそもWebサービス版は2009年6月頃から始まった「Live Translator」および「Windows Live Translator」を前身とし、同社のInternet ExplorerやMicrosoft Officeなど各アプリケーションとの統合を推し進めている(図01)。

図01 サーバー上の機械翻訳エンジンで翻訳を行う「Bing Translator」

また、Microsoftが提供する機械翻訳は、そもそも同社研究機関であるMicrosoft Researchが長年研究してきた統計的機械翻訳技術の賜物(たまもの)だ。Windowsストアアプリ版のリリースをアナウンスしたBing Translator担当プロダクトマネージメントディレクターであるVikram Dendi(ビクラム・デンディ)氏も、自社ブログの記事で同様のことを述べている。

Windowsストアアプリ版Bing Translatorは、テキスト翻訳やWebカメラ経由の翻訳、音声読み上げやオフライン翻訳機能など数々の機械翻訳に関する機能を搭載。サポートする言語数は、Webサービス版では43言語(うち二言語は映画「スタートレック」に登場するクリンゴン人の言語)に対し、Windowsストアアプリ版では、なぜかマレー語が含まれていないため、42言語となる(図02~03)。

図02 テキストボックスに単語や文章を入力することで各言語間の機械翻訳が可能

図03 言語をタップすると翻訳に使用する言語を選択できる。また、一部の言語はダウンロード可能

翻訳処理はWebサービス版と同じく、サーバー上の機械翻訳エンジンを利用するため、インターネット接続が必要となるものの、一部の言語はインターネット未接続時でも利用できるようにオフライン言語パックのダウンロードが可能。ただし、利用できるのはイタリア語/スペイン語/ドイツ語/フランス語/ポルトガル語/簡体中国語/英語のみ。日本語は含まれていない(図04)。

図04 オフライン言語パックはイタリア語などを英語に翻訳する六種類のみ

Windows 8のスナップ機能を利用することで、Webブラウジングや他国語を用いたWindowsストアアプリの文字列をコピー&ペーストすれば、簡単に翻訳できる。また、共有チャームを開くとWindowsストアアプリ版Bing Translatorが列挙されるため、共有チャーム経由の翻訳も可能だ。翻訳結果はその言語特有のアクセントで読み上げる機能もあるため、発音の確認にも利用できるだろう(図05~06)。

図05 スナップ機能を使うことでWebサイト閲覧時もコピー&ペーストで翻訳可能

図06 共有チャームに対応しているため、Windowsストアアプリ上で選択した文字列を翻訳することもできる

特筆すべきはWebカメラを利用した「カメラ翻訳」である。コンピューターに内蔵もしくは取り付けたWebカメラで雑誌や広告などを映し出すと、リアルタイムで機械翻訳を実行するというものだ。撮影角度によって正しく翻訳されない部分もあるため、実用レベルに達しているとは言い難いものの、便利な機能であることに間違いはない。Dendi氏は前述のブログ記事で、外出先の看板や広告などを翻訳できると紹介しているが、コンピューターを持ち出さねばならない点やオフライン言語パックの種類を踏まえると、実際に利用するシーンはさほど多くないだろう(図07)。

図07 Webカメラで映し出した映像の文章をリアルタイム翻訳する機能も備わっている

冒頭で述べたように機械翻訳のクオリティは実用レベルに達しているとは言い難い。Microsoft Researchの最高調査責任者であるRick Rashid(リック・ラシッド)氏の言葉を借りれば「(完全な翻訳結果を得るには)二十二世紀まで待つ必要がある」かもしれない。それでも、今後の成長に期待できる分野であることは確実だ。カメラ翻訳や音声合成機能を利用したテキスト音声変換などを備えるWindowsストアアプリ版Bing Translatorは、その片鱗をうかがえるだろう。

阿久津良和(Cactus

Bing Translator
ジャンル: 旅行
年齢区分: 12歳+
使用項目: Webカメラなど
価格: 無料
開発者: Microsoft Corporation