「IllumiRoom」が備えるさまざまな視野拡張

エンドユーザーの関心は「IllumiRoomでどのような視覚拡張が可能か」という点だろう。図07~10はIllumiRoomが実行できる視野拡張(論文ではイリュージョンと呼ばれている)の一例だが、図07はテレビ画面の映像を部屋に格調することで、ゲーム世界と現実世界を置き換えるというもの。プロジェクトチームでは「Focus + Context Full(フォーカス+コンテキストフル)」と呼び、表面色を補うする能力が限られているものの、ユーザーはテレビ画面に集中できるという(図07)。

図07 IllumiRoomの「Focus + Context Full」

図08の「Focus + Context Edge(フォーカス+コンテキストエッジ)」は、白黒色のエッジ情報を周辺に描き、ゲーム内容のコンストラストを最大限に引き出すというものだ。具体的にはゲーム内の明かりを周辺にも描くことで、視覚表現中に物体の動きをベクトルで表す「オプティカルフロー」の効果を高めている。動画では、ゲーム中のルートや周辺の建物がモノクロでテレビ周辺に映し出されるシーンが用意されており、プレイヤーはゲーム空間をより的確に認知できるだろう(図08)。

図08 IllumiRoomの「Focus + Context Edge」

図09の「Focus + Context Selective(フォーカス+コンテキストセレクティブ)」は、ゲーム中で描画される武器の効果や爆炎といった効果を周辺に描く方法。特定の効果のみを描くため、マップ上に落ちているアイテムを周辺で光らせるといった利用方法が想定される。ただし、本機能を使用するにはゲーム内のレンダリングプロセスへのアクセスが必要だという。図10の「Focus + Context Segmented(フォーカス+コンテキストセグメント)」は、テレビ奥の壁に視野拡張を行う方法である。例えばテレビの横に大きな家具を設置しているため、「フォーカス+コンテキストフル」のような描画を期待できない場合に利用するため用意したそうだ(図09~10)。

図09 IllumiRoomの「Focus + Context Selective」

図10 IllumiRoomの「Focus + Context Segmented」

IllumiRoomに用意された視野拡張はこれだけではない。「Peripheral Flow(ペリフェラルフロー)」と題した拡張は、空間のスキャン結果を基に視覚フローを周辺に描くというものだ。「Grid(グリッド)」は文字どおりゲーム内の動きを鉄格子状で描画し、「Starfield(スターフィールド)」は空間に描いた星々を周辺に描いている。いずれもゲーム内の視点移動と連動しているため、IllumiRoomに対応していない古いゲーム用に用意された拡張なのだろう(図11~12)。

図11 IllumiRoomの「Grid」

図12 IllumiRoomの「Starfield」

「Color Augmentation(カラーオーグメンテイション)」は色を増加させることで、部屋の雰囲気を変化させる拡張である。図13~15を見れば一目瞭然だが、カートゥーン(漫画)風やモノクロ化させた白黒風の視覚拡張を行うことで、ゲームの世界観に合わせた演出を実現するというものだ。技術的には“Procedural Texture”などテクスチャーの交換を行い、その結果を描いているようだ(図13~15)。

図13 IllumiRoomの「Color Augmentation」。画面は未適用の状態

図14 IllumiRoomの「Color Augmentation」。カートゥーン風の加工を行った状態

図15 IllumiRoomの「Color Augmentation」。白黒風の加工を行った状態

論文を読み進めると「Texture Displacement(テクスチャーディスプレースメント)」という視野拡張も紹介されている。例えばゲーム内で反動が大きいバズーカーなどを撃ったとしよう。しかし、その反応を体感する方法として聴覚や触感に訴えるものが多かった。この反応を視覚的に訴えるのがIllumiRoomの「Radial Wobble(ラジアルウォッブル)」。テクスチャーを置換することで、部屋内のオブジェクトの外観をリアルタイムに変化させるというものだ(図16~17)。

図16 IllumiRoomの「Radial Wobble」

図17 「Radial Wobble」の説明図。カラーボックス内のケースが歪んでいる

「Lighting(ライトニング)」は現実環境の証明をコントロールし、ゲーム内容に基づいて明るくなり、暗くなるという拡張。例えばカーレースゲームでトンネルに入ると周辺の照明は暗くなり、トンネルと抜けると一気に明るくなるという具合に利用される。IllumiRoomのプロトタイプがサポートしているのは、ソフトシャドウやシングルポイントライトなどに限られているそうだ(図18~19)。

図18 IllumiRoomの「lighting」

図19 「lighting」の説明図。観葉植物の明るさがゲームに合わせて変化している

最後の「Physical Interactions(フィジカルインタラクション)」は物理的相互作用を実現する拡張。「Focus+Context Selective」に似ているが、ゲーム上で転がる球などをテレビの外に描く「Bounce(バウンス)」や「Snow(スノー)」に利用されている。物理シミュレーションを利用し、ゲーム世界と現実世界の垣根をなくす面白い試みだ。このあたりはNUIの研究結果との連動が必要ながらも、現在発表されている情報を精査する限り、非現実的な話ではない(図20~21)。

図20 「Physical Interactions」を使った「Bounce」

図21 同じく「Physical Interactions」を使った「Snow」

繰り返しになるが、IllumiRoomはMicrosoft Researchで作成されたプロトタイプに過ぎず、我々の家庭で視野拡張を楽しめるようになるのは、数年以上先の話となるだろう。もちろんユーザーとしては早々に商品化してほしいものだが、ユーザーターゲットを踏まえた価格設定など、さまざまな要素を鑑みると決して簡単な話ではない。

だが、プロジェクトメンバーの一人であるBenko氏は「今後はインタラクティブ性を高め、画面の外にこぼれたボールを拾って投げるようなことを目指したい」と、IllumiRoomの先にある世界を語っている。次期Xboxの周辺機器として、何らかの研究結果が具現化することを期待したい。

阿久津良和(Cactus