日本語を正しく使える「ATOK 2013」と文書校正機能

文書作成の要(かなめ)となる日本語入力システムだが、例年どおりATOKも最新版となる「ATOK 2013 for Windows(以下、ATOK 2013)」を搭載している。今回のバージョンアップポイントは、ひらがな部分の入力ミスを補正する入力支援機能だ。漢字のように一目でわかる誤字と異なり、シンプルだからこそ見落としてしまう。また、変換処理がないので、誤字の発生率も高い。この点に着目した同社は、見逃しがちな「ひらがな部分」のチェック機能を搭載した。

例えば「連絡させていただきます」を「連絡させ"た"いただきます」といったタイプミスはよくある話。ローマ字入力であれば「te」と打つところを「ta」と打ってしまうと発生する間違いだが、ATOK2013では無変換となるひらがなの部分もチェックし、修復候補を提示するようになった。また、確定した単語を踏まえて同音語のチェックも行われるため、推敲作業や修正の手間を省き、作業効率が向上するだろう(図09~10)。

図09 変換しないひらがな部分に対して、誤った入力は修復候補が提示される。このまま[Shift]+[Enter]キーを押せば入力ミスを回避することが可能だ

図10 確定した後の校正支援も行われる様になり、同音語のチェックが入力時に行われる

ただし、同機能が動作するのは一定の条件があり、連文節変換ではチェックが行われない。試行錯誤した結果によると、変換方法を「連文節」にすることで前述したような訂正候補や同音語のチェックが動作するようになった。表現モードも関係しているようだが、以前のATOKからバージョンアップする場合は、この点に注意してほしい(図11)。

図11 確実ではないが、筆者の環境では変換方法として「連文節変換」を選択することで、チェック機能が動作した

なお、Windows 8に完全対応したのも新機能の一つに数えていいだろう。モダンUIやWindowsストアアプリ上での入力や、タッチキーボードが使用可能になっている。そもそもWindows XP以降、入力システムとして以前のIMM(Input Method Manager:入力方式マネージャー)からTSF(Text Services Framework)移行しつつあり、ATOK 2011以降はTSFに対応。さらにWindows 8はSIP(Soft Input Panel:ソフト入力パネル)への対応も必要なため、TSFの各種仕様を満たした初の商用日本語入力システムとなる(図12)。

図12 タッチキーボードをATOK 2013として選択した状態。もちろんモダンUIやWindowsストアアプリ上の入力も可能になった

このようにWindows 8への完全対応を図った一太郎 2013&ATOK 2013だが、Windows 8側の問題で縦書き環境に問題が発生している。KB2781747で公開された情報によると、三点リーダなど一部の文字が縦書き時に正しく表示されないというものだ。もちろんMicrosoft側の問題なのでジャストシステム側に落ち度はないが、縦書き環境は日本語文書作成で重要なポイントの一つなので、Microsoftの早期対応を期待したい(図13)。

図13 Windows 8では一太郎2013を縦書きで使用すると、三点リーダなど一部の文字が正しく表示されない。これはWindows 8側の問題だ

あまり目立たない機能だが、有用なのが文書校正機能である。従来の「一太郎」シリーズも備えていた機能だが、名称や初期設定値を見直し、誤字脱字のみをチェックする「簡易」や、文体を含んだ校正を行う「だ・である調」「です・ます調」といった設定項目を用意。指摘箇所は色付けして本文中に表示されるため、確認箇所が一目でわかるのがありがたい。これらの機能は同社から発売中の文書校正支援ツール「Just Right!5 Pro」と同じエンジンを採用しているようだ。もちろん一太郎2013が備える校正機能は簡易的なものだが、より正しい日本語文書を作成するという観点からすれば十分な機能と言える(図14)。

図14 一太郎2013が備える文書校正機能。同じ文書中で異なる表記を用いる「ゆれ」や応答しない括弧を確認する「括弧」など細かい調整が可能だ

さて、最後に苦言をいくつか述べておきたい。一太郎2013インストール時には「Yahoo!ツールバー」のインストールをうながすのはいただけない。また、単語選択時のコンテキストメニューからは任意の検索サイトで検索を実行することが可能だが、ここにも初期設定もYahoo! JAPANである。検索エンジンとして他に選択できるのはgooのみで、GoogleやBingなどに切り替えることはできなかった。Yahoo! JAPANもgooも日本国内の検索サイトという見方もあるが、ユーザビリティの観点からすれば自由に選択できるようにすべきだろう(図15)。

図15 単語選択時のコンテキストメニューからは検索サイトを用いた単語検索が可能だが、選択肢はYahoo!JAPANとgooに限定される

また、筆者は本製品のレビューを行う前から個人的にATOK 2013を購入して使用しているが、いまだにATOKクラウドサービスを有効にすることができない。環境依存の問題かと異なるコンピューターで試してみたが結果は同じ。サポートセンターに連絡して相談しようと思ったが、そのメール送信フォームはWebサイトから見つけ出すことができなかった。筆者の探し方に問題があるのかもしれないが、通常は電話番号と並んで掲載されているのが一般的ではないだろうか(図16)。

図16 ATOKクラウドサービスの初期化を実行すると、サーバー内部エラーとなってしまう

このように不満が残る部分もいくつか見受けられるが、相対的に見ると一太郎2013やATOK 2013の使い勝手は順当に向上したと述べて良さそうだ。さまざまな選択肢が用意された今、必ずしもワープロソフトは必要ではない。だが、正しい日本語文書を書きたいと望むユーザーには、欠かせない道具ではないだろうか。日本語にこだわる純国産ワープロソフトである「一太郎」シリーズは、その責務を担うに値する存在だ。

阿久津良和(Cactus