考えられる理由としては、「3月にはまだ製造がスタートしない」あるいは「iPhone 5とiPhone 5Sで仕様変更が少なく、サプライヤ間に目立った動きが見られない」などだ。また中国移動通信とNTTドコモの件だが、毎回iPhoneリリースのたびに噂に上るにもかかわらず、最終的合意に至っていないのも両社の特徴だ。現時点で断定はできないが、筆者の予想では「Appleの業績を押し上げるプラス材料」として挙げられた項目に過ぎないと推測している。少なくとも、(発売時期さえ不明な)新製品発売が近付く前に確定情報として出るものではないと考える。

Misek氏はiPhone新製品について4.8インチスクリーンへの言及がある。これは以前のレポートにもあるように、同氏が昨年末時点から予測として挙げているものだ。同記事ではiPhone 5Sのほか、次のiPhone 6についての新機能やスペックが記されている。iPhone 5Sではより高解像度なRetina+とIGZO、128GBの内蔵ストレージ、6~8色のカラーバリエーションが採用され、iPhone 6ではさらに4.8インチへとスクリーンサイズが拡大し、A7プロセッサを搭載するという。4.8インチへの移行があるかは不明だが、少なくとも直近の世代で移行を実現するのはコストと歩留まりの問題から難しいというのはMisek氏の指摘通りだ。同じ理由でRetina+やIGZO (あるいはOLED)を次世代(iPhone 5S)で採用するのは難しいとみられ、あくまでMisek氏が挙げる「Appleへのプラス材料」だと考えておいたほうがいいだろう。128GBストレージについては第4世代iPadの新製品で搭載モデルが用意されたが、これがそのまま実装サイズにシビアなiPhoneに採用されるかは不明だ。

またディスプレイ技術について注意したいのは、最近のApple製品の多くがこのディスプレイ部品の歩留まりが問題で製造が逼迫しているという点だ。初代iPad、その次のRetinaモデル、iPhone 5のインセル技術と、大きな世代交代で発生している問題で、これはOLED/IGZOへの移行、4インチから4.8インチへのサイズ変更でも発生するとみられる。歩留まりはもちろんだが、現時点でOLEDとIGZOは供給事業者が限られており、特にSamsungのAMOLEDやシャープのIGZOと当面はサプライヤが1社になる危険性をはらんでおり、Appleにとって最大のリスク要因となる。おそらくはディスプレイ技術の選択に関してAppleはかなりコンサバティブに動くとみられ、超大量生産の必要な部品に"とがった"技術の選択は難しいのではないかとの筆者の予想だ。むしろこうした冒険は、現在のAppleの屋台骨になっているiPhoneよりも、噂の腕時計型デバイスのような新カテゴリのデバイスで試されるのではないか。

次世代のAxプロセッサにアーキテクチャ上の改良が加えられるという部分については、筆者は肯定だと考えている。A6に次ぐメジャー版として「A7」が登場する場合、プロセッサコアを含めた全体のブラッシュアップとアーキテクチャ変更が加えられるとみられる。同プロセッサを搭載した製品の登場時期は前述のように今年末から来年にかけてと考えられるが、この時期にはARM Cortex-A15をベースとしたTegra 4や次世代のSnapdragon 800シリーズがすでに登場しており、モバイルプロセッサのパフォーマンス勢力図も大きく変化している。現在のA6はCortex-A9ベースのコアを独自カスタマイズしたプロセッサだとみられているが、次世代プロセッサではCortex-A15に近いアーキテクチャやパフォーマンスを持って登場するのではないかと予想できる。ただ気になるのは、Misek氏が指摘する「TSMCで20nm製造プロセス」という部分で、実際にTSMCへの移管が発生するかが未知数な点だ。Tegra 4やSnapdragon 800シリーズはリリース時期を今年2013 年第4四半期としており、実際の搭載製品は早くても同四半期、多くは来年2014年初頭の出荷になるとみられる。理由の1つはTSMCの20nm製造プロセスのキャパシティ問題で、もしA7がTSMCの20nm製造プロセスで登場するのであれば、少なくともiPhoneの需要を満たすだけのプロセッサの安定供給は2014年前半いっぱいまでは難しいのではないかと予想する。

現在のSamsungの半導体工場に委託し続けるのか、あるいはTSMCに移管するのかでロードマップが大きく変化すると思われるが、Appleがリスクを低減させるのであれば現状維持の前者を選択する可能性が高いだろう。またMisek氏はA7でオクタコアのアーキテクチャを想像しているようだが、現行のA6プロセッサのデュアルコアアーキテクチャを順当進化させるのであれば、ダイサイズを考えてもクァッド止まりの可能性が高いとみられる。アプリ利用やWeb描画などのiPhoneの通常のユースケースではシングルスレッド性能のほうが重視されるため、高速化の恩恵を受けるアーキテクチャという意味ではコア数を増やすよりも、アーキテクチャの改良でコア自体を高速化するほうがメリットが大きく、トランジスタもそちらに優先的に割り振ったほうがいいと考えられる(つまり単一プロセッサコアの大型化)。