世の中には「手の届かないもの」というのがある。そのジャンルの製品自体は自分の身の回りにある品々。……でありながら、それらの最高峰に位置する製品は、実際に購入するとなると目ん玉がいくつも飛び出るほどの値段がするから、憧れはするけど夢のまた夢……そんな製品がきっと誰でもあるはずだ。本連載では各ジャンルで一般消費者も手に入れることが可能ながら(つまり業務用製品ではないという意味)、現実に買うのは二の足三の足四の足も踏んでしまうようなプレミアムプロダクトの数々を実際に体験し、インプレッション的レポートとしてお送りしようというものである。

何をもって「高級」と言うか?

「高級」って、何だろう。

たぶん普通の感覚からすると、億単位のカネを出して出かける宇宙旅行とか、自分の財産として所有するドバイのリゾートホテルとか、そういう突拍子もないものはあんまり「高級」とはいわないんではないか。それこそ石油を掘り当てたりでもしない限り、入手することはまずできない。

それじゃあどんなものを「高級」と感じるのかというと、普段手にするジャンルのアイテム、たとえばテレビとかステレオとか冷蔵庫とか洗濯機でありながら、高価でなかなか手が出ないものを「高級」と認識するのではないかと思う。

それでも「高級」なものはたいてい、多少の頑張りで手に入れることもできる。そのスケール感を比較すると、スタンダードが5万円、「高級」が15万から20万円……といったところだろうか。まあ、買おうと思えば買える。

ところが世の中には、同じく身近なジャンルに属しながらも、とてもじゃないが買えない遠い遠いものがある。要は高級を超えた「超高級」の品々だ。この基準で家電の世界を見渡したとき、真っ先に目に飛び込んできたのは大画面テレビだった。

わが家の32型テレビだって小さくはないんですよ

狭いマンション住まいのわが家ではあっても、リビング(と呼べるほどのものではないけれど)にはきっちりとテレビがある。狭い狭いリビングにデカい顔して鎮座するテレビ、実はイマドキのスタンダードからしたらまったくデカくはなくって、たかだか32型である。それにもかかわらずデカく感じてしまうのは、単にわが家が狭いからだ。

わが家ほどしょぼくはなくても、多くの家のリビングに鎮座ましますテレビのサイズはせいぜい40型台、どんなにがんばっても50型台だろうか。ある友人宅で50ナニガシ型のテレビを拝見したことがあるけれど、その家は庶民の暮らしからややかけ離れた大箱だった。人は50を越えてやっとオトナの風格が身についてくるものだけれど(40代前半の自分はまだまったくのお子ちゃまなので)、テレビも50型を超えるとさすがにデカい。でもあんなデッカいテレビ、わが家にはやっぱり置くスペースがないし、第一高すぎる。

そんなチープな視野に挑戦的な表情で食い込んできたのが、今回の主役。ソニーが「BRAVIA(ブラビア)」ブランドでリリースした84V型の超大画面液晶テレビ「KD-84X9000」である。32型を日頃使っている自分にとって、84V型とはいったいどんな世界なのか。東京・銀座のソニーショールームへ、担当編集ミチダとふたりで胸躍らせて出かけたのであった。

84V型ってどんだけデカいのよ!?

友人宅で目にした50型台のテレビは、大きいけれどたしかにテレビだった。テレビ以外の何物でもなかった。では84V型はどうか。ここまでデカいと、もはやテレビとは感じられないかもしれない……僕とミチダの前に現れたKD-84X9000は、古い話で恐縮だけれどガトランティスの都市帝国から超巨大戦艦が登場したときのような、つまり目にした瞬間に頭の中でパイプオルガンの荘厳な響きが鳴り渡るような……衝撃は別になかった。

それはデカいながらも、やっぱりオブジェとしてはあくまでテレビであり続けたのである。これは、ガッカリしたとか肩すかしを食らわされたとか、そういう意味では決してない。だって僕らは超巨大戦艦ではなく、テレビを体験しにきたのだから。こんなところで煙に巻かれても仕方ない。

つまりこの超デカいシロモノは、堂々たるテレビの顔をきちんと備えていたのである。

これが「KD-84X9000」の全体像。こうして写真で見ると、"普通の"テレビだ。意外と大きく感じず、初めて見たのに目になじんでる気がしてしまったのは何とも不思議。実際は大きいのに。これも視野の広い4Kのマジックなのかも。実際にどれくらいのサイズなのかは、下の写真で確認してもらいたい(写真をクリックすると拡大します)

何度も登場してもらう友人宅の50ナニガシ型は、広いリビングのあっちの端に設置してあった。ちょうどテレビの真正面にソファが設置してあるんだけれども、テレビからの距離は身長177cmの僕が寝っころがって伸びをしてもまだ余るくらい、つまり2m以上は離してあった。50ナニガシ型でそれなのだから、84V型はさぞ遠くに座るのだろうなと思っていたら、通された部屋は案外狭い。「これが最適視聴距離です」と座らされた椅子は、なんと1m50程度しか離れていなかった。

……近い! 手を伸ばせば届きそうなくらいだ!(もちろん1m50cmも離れているから届くわけはないのだけれど)

こんな近距離からテレビを見てもいいものなのか。大昔、ちっちゃなブラウン管テレビにかぶりつきでピンクレディーを見ていたら、母ちゃんに「もっと離れて見なさい!」と怒られたではないか。

しかし時代は変わり、画面はあの頃のちっちゃなテレビが10個以上余裕で入っちゃうくらいデカくなった。しかもいまはブラウン管ではなくて、液晶画面なのだ。

そして驚くほどに、近さを感じなかったんですよ、実際。

というのも、画面の中に登場する街の景色や海岸の光景がナチュラルで、大げさでなく本当にその場にいるような感覚。32型では絶対に感じないし、50ナニガシ型でさえ物足りなかった臨場感が、このKD-84X9000にはあった。そこに映された海外のとある街のその場所を、僕は実際に訪れたことがあったんだけども、思い出の中のシーンがまざまざと甦ってきて、まあなんというか、懐かしい気持ちになったのだった。

近いのに近さを感じさせない秘密は4Kの高精細映像にあり

その理由は、「4K」であったと思われる。4KはフルHD(1,920×1,080)の4倍の解像度(3,840×2,160)で、約829万画素を持つ。つまり、ただ画面がデカいだけじゃなくて、広い(=精細)。だからこそ、画面内のヒトやモノが不自然にクローズアップされる印象がなく(周囲を切る必要がないため)、自然な広さの中に自然なあり方で、自然な要素として存在できるのだろう。

解像度がフルHDの4倍(縦横各2倍)あることで、対象物が不自然に切り取られたりクローズアップされたりせず、全体の中で自然に存在できる。ヒトも自転車もほんとこの場所にいる感じ!(写真をクリックすると拡大します)

解像度がフルHDの4倍であることで、いい意味での遊びのエリアが広く取れる。だから近づいて鑑賞しても、画質の粗さを感じないワケだ。超大画面と4Kは、実に仲が良い。もちろんこれを楽しむには、4Kに対応して制作された映像が必要なのだけれど。通常のテレビ番組を見たら、さすがにつらかろう。

これは映像ではなく写真を表示してみたところ。全体像はこんな感じ(左上)、赤ちゃんの顔部分のアップはこんな感じ(右上)。さらに赤ちゃんの左目の辺りと甚兵衛の襟元に寄ってみたら、まゆ毛とか布目とか細かいところまできっちり描写されててオドロキ(写真をクリックすると拡大します)

加えて本製品は、音もなかなか素晴らしい。「コンサートホールにいるような」というよく言われる表現は、さすがにこの製品においても誇大表現ではあるけれども、今回試した理想的な環境では誇大とまではいかず、「やや誇大」程度かなとは思った。つまり、よかったよ!ということね、念のため。たしかに広がりがあるし、音のヌケもいい。とてもじゃないが自分の狭い家でこんな音は出せないけれど、これを買って設置できる人へのジェラシーはちょこっと感じた(笑)。

画面だけデカくて音がショボかったらさすがにつらいだろうが、この製品は10ユニット(ツィーター×2、ウーファー×4、サブウーファー×4)のスピーカーシステムで音もバッチリ。広がりも迫力もなかなかのもんだ(写真をクリックすると拡大します)

ただし、"ガワ"もさすがにデカい。本体サイズは幅が213.7cmと、マイケル・ジョーダンやダルビッシュ(いずれも200cm級の身長)が寝ころんだときよりも15cmくらい長い。高さも1mを余裕で超える。おそらくうちのマンションでは玄関から入れられない。その場合はやっぱり外から吊り上げか?

本体寸法は横幅213.7cm・高さが113.6cm(スタンドなしの状態)。こうして担当編集ミチダ(身長171cm)と並べるとさすがにデカいのが分かる。両手をいっぱいに伸ばしてもギリギリ届きません(写真をクリックすると拡大します)

フロアスタンドの足元に筆者ナガタの靴(27cmくらい)を置いてみたらこんな感じ。スタンドの奥行きは56.7cmなので、だいたい靴の倍サイズか。一方、本体の幅はわずかに9cmだから、スマホを上にのっけるのもちょっと怖いかも(写真をクリックすると拡大します)

「それしかないでしょうね」と、ソニーの担当者はにこやかに答えてくださった。剛毅だ。

美しい大画面をウリにしている製品を目の前にして、美しい!デカい!……という感想を抱いてしまってはあまりに芸がないと思うのだけど、その素直な感想をジンジンと抱かざるをえなかったことを、最後に記しておこう。

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