「NW-F805K」が搭載している高音質化技術は、ウォークマン内部の処理から付属ヘッドホンに至るまで、あらゆる場所に施されている。音声信号のデジタル処理を最適化し、デジタルアンプ「S-Master MX」、付属の外部スピーカーやヘッドホンでの音響特性を最適化する「クリアフェーズ」、音声ファイルの圧縮によってカットされがちな高音域を補完する「DSEE」、ヘッドホンでの左右の音の混在を抑える「クリアステレオ」、重低音を再現する「クリアベース」といった、音声信号のデジタル処理に関するものだけでも5種類の高音質化技術が採用されている。

さらに、ウォークマン内蔵のスピーカーや付属の外部スピーカーでの音声出力時に音量を増強する「xLOUD」技術を搭載しているほか、付属のインナーイヤー型ヘッドホン使用時は周囲の雑音を98%カットできるというデジタルノイズキャンセリング機能も利用可能。使う人の好みに合わせて調整できるイコライザーと、スタジオやライブハウスのような臨場感のある音場を再現する「VPT」技術もあり、まさに至れり尽くせり。

多数の高音質化技術が搭載されている

イコライザーも標準装備。曲調に合った調整が可能だ

マスターボリュームのほか、メディア音量と通知音量を別個に調節できる

個人的には、オーディオプレイヤーとしても比較的評価が高い「iPhone 5」と比べても、低音域はキレがよく、中・高音域の解像感も高いように感じられた。付属のヘッドホンは広がりのある音場を再現し、ポップス系のジャンルでは豊かなサウンドを聴かせてくれる。ただ、その特性により、音の強弱の差が大きいクラシックなどでは、逆にメリハリが抑えられてしまうにも感じた。とはいえ、ヘッドホンの音については好みの分かれるところでもあるし、いざとなればお気に入りのヘッドホンに変えてしまってもよいだろう。

ノイズキャンセリング機能も搭載する付属ヘッドホン。サイズ違いのイヤーピースが3種類用意される

ヘッドホンを接続する際には、充電・データ転送用端子のカバーも可能

プリインストールの音楽プレイヤーアプリでは、「Z」シリーズにもあった「12音解析」による楽曲の解析処理も可能。「NW-F805K」内にある楽曲それぞれについてリズム、コード進行、曲の構造、楽器音などを認識し、どのような楽曲であるか、ということを機械的に把握する。処理が完了した楽曲は、音楽プレイヤーアプリ内の「おまかせチャンネル」で、曲調に沿ったジャンルに自動で分類されるほか、「NW-F805K」で再生しながらさまざまなビジュアルエフェクトをアニメーション表示することが可能になる。

標準の音楽プレイヤーアプリ。アートワークが散らばる「カバーアートビュー」の操作感も面白い

端末の側面中央にあるボタンを押すと、現在再生中の楽曲をすぐさまコントロールできる

「12音解析」により、自動でジャンル分けされる

たとえば、楽曲中の静かなパートでは動きや色の変化が少ないが、サビのパートになるとグラフィックがカラフルになって激しく動く、という具合に、その楽曲の「ノリ」に合わせてアニメーションが表示されるのである。簡易的な「12音解析」であれば、ウォークマン本体で処理する場合は100曲前後でだいたい1時間程度。より楽曲に合ったビジュアルにしたいときはさらに時間がかかるが、大量に処理しなければならないのは本製品を使い始めたときだけだろう。PC側にインストールする後述の専用アプリでも同様の処理ができるので、ぜひ試しておきたい機能だ。

「12音解析」を行えば、アニメーションパターンが異なる多彩なビジュアルエフェクトを音楽とともに再生することも可能

音楽ファイルの対応コーデックは、MP3/WMA/ATRAC/ATRAC Advanced Lossless/FLAC/リニアPCM/AAC/HE-AACの8種類。本製品で初めてフリーの非圧縮のロスレスコーデックであるFLACにも対応した。音楽だけでなく動画の再生も可能で、MPEG-4/AVC(H.264/AVC)/WMVの各フォーマットに対応。画面がやや小さいとはいえ、クリアな映像で視聴できる。

静止画像や動画の閲覧ももちろんOK

「NW-F805K」への楽曲の転送は、専用アプリケーション「x-アプリ」を利用する。WebサイトからPCにダウンロードしてもよいが、USBケーブルでPCに接続して「NW-F805K」のメモリからもインストールすることも可能。初回起動時に「iTunes」に登録している既存の楽曲などをインポートする機能もあり、iPod/iPhoneユーザーの移行の手間はかなり軽減されている。ただし、「x-アプリ」はWindowsのみの対応で、Mac OSに対応した転送用アプリケーションが用意されていない点には注意しておきたい。

Windows用の統合アプリケーション「x-アプリ」

「mora」ではDRMフリー音源の配信もスタート

ソニーグループが提供する音楽配信サイト「mora」や「Music Unlimited」との連携機能も備え、有料・無料に関わらず多彩な楽曲コンテンツを入手するためのプラットフォームはすでに整っている。とりわけ「mora」で10月1日から高ビットレート・DRMフリー音源の配信が開始したことについては、ビットレートの低さやファイルの扱いにくさのために音楽のネット購入に踏み切れなかったユーザーには朗報だろう。ソニーにとっても、これをきっかけに新規のユーザーを増やしていきたいところだろう。

「NW-F805K」では、新しく採用された「高音質化技術」や「Android 4.0」といった部分が注目されがちだが、「Z」シリーズに続く第2弾のAndroid搭載ウォークマンとしての完成度、つまり機能面や性能面での成熟度合いも注目すべきポイントだと思う。

すでに取り入れている安定した技術は継承しつつ、新しい要素を少しずつ上乗せして先進的なユーザーのニーズにもしっかり応えるという、地味ながらも着実な進化を「NW-F805K」は果たしている。さらに魅力が増したウォークマンは、「使ってみるとさらに良さがわかる」ポータブルオーディオプレーヤーになっていると感じた。

フォトスライドショーはこちらから →

icon icon