韓国LG Displayが次世代iPhone向けの新技術を採用した小型ディスプレイの量産をスタートしたと、米Bloombergなど複数メディアが報じている。LG Displayは供給先などは明言していないものの、量産を開始したのはインセル(In-Cell)方式のディスプレイで、歩留まり等の問題が解決したことを強調している。一方でこの歩留まり問題が次世代iPhoneのタイトな供給につながる可能性を指摘するアナリストもおり、アキレス腱のような存在となりそうだ。
Appleが次世代iPhoneでインセル方式のディスプレイを採用する可能性が高いことは、以前にレポートで紹介したとおりだ。表面のガラス面と液晶ディスプレイの間にタッチセンサーを挟み込む従来のオンセル(On-Cell)方式に比べ、インセル方式では液晶ディスプレイに直接タッチセンサーを組み込む形のために薄型化や、部品点数削減による低コスト化が可能だ。さらにオンセル方式では、液晶ディスプレイまでの間に複数層ができることで反射による視認率低下の問題があるが、インセル方式ではこの問題が改善され、特に屋外などでの利用においても視認率が大きく低下しないというメリットがある。一方でインセル方式最大の課題は製造の難しさで、歩留まりが上がりにくいという理由で大量製造が難しかった。これまで長らくインセル方式がメインストリームにならなかった原因がこれだ。もしAppleが次世代iPhoneでインセル方式ディスプレイ採用を決定した場合、それはこの製造問題で一定の目処が立ったことを意味している。
Bloombergによれば、LG Display CEOのHan Sang Beom氏は8月23日に開催されたプレスカンファレンスの中で「これまで用いたことのない技術の実現にあたって、多くのトライ&エラーを経験してきた。だが現在、これらの問題は解決されている」と述べ、インセル方式ディスプレイの大量生産が可能になったことを強調した。LG Displayは「次世代iPhoneでの採用」など、Appleやその他の顧客につながる情報は提供していないものの、複数のアナリストらは異口同音にApple向けの大量供給を想定したものとの見方をしている。なお、複数の報道によれば、Appleが次世代iPhone向けのパネル供給先としてシャープ、ジャパンディスプレイ(JDI)、LG Displayの3社を選んでいるとされており、残り2社についても何らかの技術的目処が立った状況だとみられる。
だが実際の問題は、インセル方式のディスプレイが大量生産に移行したとして、iPhoneの需要を満たすだけの供給が可能かという点だ。例えばThe China PostはBank of America Merrill Lynchのアナリストの発言を引用して、iPhoneの製造を行う台湾Hon Hai Precision Industry (鴻海精密工業)の製造ペースは今後数カ月にわたって非常に緩やかなものになるとの見解を述べている。Merrill LynchアナリストのRobert Cheng氏は顧客向けレポートの中で「次世代iPhoneについて2012年第3四半期に2000万台、第4四半期に5000~6000万台といった見方をする者もいるが、これは非常に楽観的な予測だ。現場の製造キャパシティと実際のアウトプットには乖離があり、サプライチェーンにおけるボトルネックが最初の出荷ボリュームに影響を与えることになる」との予測を述べている。ここでいう最大のボトルネックとは、前述の「インセル方式ディスプレイ」であり、これがiPhone全体の製造台数に大きな影響を及ぼすとの見方を強めている。
過去にもAppleは、ディスプレイ供給がネックになりiPadの発売を延期しただけでなく、出荷を絞らざるを得ない状況に陥っている。この原因となったのがLGの製造するディスプレイの歩留まり問題で、以後Appleは製造ボリュームの拡大に合わせて複数のサプライヤーから部品を調達する体制に切り替えている。この初代iPadの発売に際しては、当初は米国向けのみの出荷に限定し、さらに同国でも販売台数を限定する措置を執っている。日本を含む海外向けの出荷が開始されたのは米国での発売から1カ月以上が経過してのことで、場合によっては新型iPhoneにおいても似たような状況に陥る可能性がある。先日、新型iPhoneの米国での販売が9月21日より開始されるとの噂を紹介したが、この中で米国外では10月以降の発売となる話を紹介しており、もしiPadと同様の状況になるならば、日本での発売もまた遅れる可能性があるといえる。