―― 山では、時計と高度計以外にどんな機能をよく使いました ?
竹内氏「まずは方位計ですね。腕時計の方位計でルートを探すことはありませんが、衛星電話の角度を見るときや地図を整置するときなど、どっちが北なのかちょっと知りたい場面ってあるんです。そんなとき、腕時計に方位計がついているとすぐに方角を知ることができて便利ですよね。いちいちコンパスを取りだすのは面倒ですから。
あとは気圧計の気圧差傾向表示です。これはかなり頻繁に見ていました。気圧の変化と天気の推移は密接に関わっているので、何とかして気圧差傾向から天候が読み取れないものかと。ただ今回の登山では、あまり目盛りが動かなくて、実際の天候の変化と結びつけるのは難しかったですね」
牛山氏が当初考えていた高度表示法について、ホワイトボードに描きながら説明をしてくれる(写真左)。竹内洋岳・特別仕様のPRX-7000T(写真右)。4つの針にそれぞれ鮮やかな色が配され、視認性が増している。牛山氏がこの"特別な1本"を持って、ネパール滞在中(ダウラギリ登山直前)の竹内氏まで届けに行ったとか |
航空計器が開発のヒントに
―― PRX-7000Tの開発にあたって、どんな部分に竹内さんのこだわりが反映されたのでしょうか ?
牛山氏「ひとつには高度計の表示方法があります。PRX-7000Tでは、時針が1,000mの位、分針が100mの位、秒針が10mの位をそれぞれ指し示すことで現在地の高度を表わしていますが、もともとはまったく違った表現方法を考えていたんです」
―― 違った表現方法とは ?
牛山氏「例えば、0mから1万mまでの高度を1本の針がぐるっと回転することで指し示す方法です。別の案では2本の針を使って、1本の針が1,000mの位を示し、もう1本の針が0~1,000mの値を示すという方法を考えました。でも、どちらも竹内さんからダメ出しされて(笑)」
竹内氏「私としては、アナログ時計で時間を読むのと同じ思考回路で、高度も読めるようにしてほしかったんです。牛山さんの案では、時間と高度の読み方がバラバラになっていた。それだと、ヒマラヤの超高所でただでさえ考えることができない状況のなかで、直感的に高度を把握することができないわけです。
私からのリクエストは、とにかくシンプルで分かりやすい表現方法にしてほしい、と。時間を時針/分針/秒針で『何時/何分/何秒』と読むのと同じように、標高も3つの針で『何千/何百/何十 m』と読めるようにしてほしかった。そこで1つの例として、私から航空計器のアイデアを提案させてもらったんです」
―― 航空計器ですか !?
竹内氏「パイロットの世界には"6割頭"という言葉があるそうで、それは1つとして、高度による低酸素や極度の疲労、緊張によって思考能力が低下した状態を表わしているんだそうです(編注:通常の"6割"くらいしか脳が機能しない状態の例え)。その6割頭でも理解できるように、航空計器にはさまざまな工夫が施されていると思います。
例えば昔の航空機の高度計は、それぞれの針が別々に動いて高度を表現していました。それを参考にしたらどうかと、牛山さんにお伝えしたんです。恐らく、今とは比べものにならない装備の飛行機に乗り込んでいた当時のパイロットは、高所登山で高いところに行くのと、状況としては似ていたわけですからね」
牛山氏「竹内さんのその話を聞いたとき、はじめて私の中に"Smart Access"(スマートアクセス)のテクノロジーを活かせるという発想が生まれました。Smart Accessならば、時針、分針、秒針、モードを示すインジケーター針の計4本の針を別々のモーターで駆動できるので、竹内さんの求めるアナログ針による高度表現ができるんじゃないかと。それで現在の形になったんです」
―― 竹内さんが登山時に着用されていた時計には、各針に色がついていますよね。それもご自身のアイデアですか ?
竹内氏「そうです。時針が"緑"、分針が"黄"、秒針が"赤"、インジケーター針が"青"。この4色も航空計器によく使われている配色で、きっと直感的に人の頭に入りやすい色なんでしょうね。今回のダウラギリ登山のために、牛山さんに特別に作っていただいたんです」
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