14座に意味はない。でも、想いはある。

「日本人による14座完登という"歴史"に関わることができて、すごく幸せだったし、おもしろかった」と語る竹内氏

―― 8,000m峰14座完登を達成した今の感想をお聞かせください。

竹内氏「そもそも8,000m峰や14座に特別な意味はないと思っています。例えば、8,000mという標高も、たまたまメートル法で8,000m峰になっただけで、フィートやヤード、尺、里、では8,000m峰でもないし、14座でもない。言うなれば、無数にある"地球のでっぱり"を、たった14個、集めただけのことです」

竹内氏「でも、登山がおもしろいのは、ただの地球のでっぱりにいろんな人が関わることで、歴史が生まれ、ドラマが生まれ、魅力や個性を増していくんです。そして、私たちはその魅力や個性に惹きつけられ、その山に登りたくなるわけです。

例えば、PROTREKシリーズにその名が使われている"マナスル"だって、1950年代に日本隊が初めて挑んだ8,000m峰であり、3回もチャレンジしてやっと登頂できた悲願の山であり、日本人が世界の登山家に先駆けて初登頂した山として知られています。そんな数々のドラマがマナスルにはあり、だから私たちはマナスルという山に惹きつけられるんです。

8,000m峰14座も同じで、これまでに数多くの人が関わってきたことで幾多の物語が生まれ、魅力が増してきました。そこに私は魅せられ、そして14座を登ろうと決意し、無事に達成することができた。日本人初の14座完登に記録としてどれだけの意味があるのかといえば、意味はありません。でも、私なりの想いはある。14座に登ることができたのは、すごく幸せなことだし、何より楽しかった。それが私にとっての14座だったと思います」

「竹内さんの要望には、まだ1/3ぐらいしか応えることができていない」と牛山氏。この2人のコラボレーションで、今後PROTREKはさらなる進化を続けるのだろう

―― 次に登ってみたい山は ?

竹内氏「ありますよ。でも、具体的にどこということじゃない。ぼんやりと、いろんな山が、頭のなかにあるという感じです。登りたい山、登りたいルートなんて、まだいくらでも残っていますから。なので、『次の目標は ?』と聞かれれば、『そのときの自分が登りたい山に、登りに行くと思います』としか答えられないんです」

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取材を通じてもっとも強く感じたのは、PRX-7000Tという時計は、技術者である牛山氏と登山家である竹内氏の2人がいて、そしてお互いがせめぎ合うことで、はじめてこの世に生まれることができたということだ。2人のどちらが欠けても、きっと今の形にはならなかっただろう。

竹内氏が語った「山」と「人」の関係性は、「時計」と「人」についても同じことが言えるのではないか。無機質な道具である時計に、どんな人たちが、どんな想いを込めているか。それを知ることで、その時計の見え方が変わってくる。2人の話を聞いて、PRX-7000Tの個性や魅力がさらに増した気がする。