海洋研究開発機構(JAMSTEC)は7月6日、海底下の圧力を保持した状態でコア試料を採取するために、従来の「保圧コア採取システム」を地球深部探査船「ちきゅう」用に改良した「ハイブリッド保圧コアシステム」(画像1)を開発し、2012年6月26日から28日まで実施した実海域における動作試験に成功したと発表した。

画像1は、ハイブリッド保圧コアシステムの概要。これまで「メタンハイドレード資源開発研究調査」に使用されてきた保圧コア採取システムを、地球深部探査船「ちきゅう」の掘削システムに適合するように改良・開発し、採取可能なコア試料の直径や長さを、直径5cm、長さ3.5mにまで拡大したものだ。最大345気圧(水深3450mの圧力に相当)までのコア試料を、現場の圧力を保持した状態で採取することが可能なシステムとなっている。

画像1。ハイブリッド保圧コアシステムの概要

通常の保圧していないコアシステムでは、海底下深部からコア試料を回収する際に、圧力の低下によってコア試料内部のガス成分が抜けてしまい、地層中に含まれるガスや水の化学成分組成や、地質学的な構造、微生物の生息環境などを変えてしまうといった問題があった。

このため、海底下のガスハイドレートや深部ガスなどの炭化水素の実態解明や、地層中の流体・物質循環に関する研究、海底下の生命活動などに関する研究が困難となっていたのである。

今回の試験では、紀伊半島の沖合約80km、水深約1900mの「南海トラフ熊野灘第5泥火山」(画像2・3)において、山頂部から掘削を行ない、山頂部海底表層及び海底下深度60mの地層において、ハイブリッド保圧コアシステムが正常に動作することが確認された。

画像2(左)は、南海トラフ熊野灘第五泥火山の位置と掘削地点の広域図で、画像3はその拡大図

そして同時に、回収された保圧チャンバー(保圧状態でコア試料を収納するための容器)を船上のX線CTスキャンによって確認したところ、メタンハイドレートを含むコア試料が現場の圧力(約200気圧)を保持した状態で採取されていることも確認された次第だ。

そのコア資料がのX線CT画像(「ちきゅう」船上にて撮影)が画像4だ。海底泥火山のレキを含む粘土質のマトリックスに、脈状のメタンハイドレートが分布していることが確認された。

画像4。南海トラフ熊野灘第五泥火山の山頂より、約200気圧という現場の圧力を保持したまま採取されたコア試料のX線CT画像

なお、今回、海底泥火山からメタンハイドレートを含む保圧コア試料が採取されたことは世界初であり、今後、高知コア研究所(高知県南国市)に保管され、地球化学や微生物学などの研究に活用される予定だ。

また、今回の「ハイブリッド保圧コアシステム」の開発により、「ちきゅう」を用いて海底下から現場の圧力を保持した状態でコア試料を採取し船上に回収することが可能となったことから、地球科学-生命科学を融合した最先端研究を一層推進していくことが期待されると、研究グループはコメントしている。