NVIDIA主催の今年の「GPU Technology Conference (GTC)」での主なテーマは、Kepler 2と呼ばれる「GK110」の詳細の公開だった。この技術が同社の既存ビジネスを盤石にするものだとすれば、同時にサプライズ発表された「VGX」「GeForce GRID」と呼ばれるクラウド技術は「同社にとって新たなビジネス市場の開拓」を意味している。本レポートではVGXの概要ならびに、そのビジネス的可能性を探ってみる。

GPU+仮想デスクトップ環境でユーザーのメリットは?

NVIDIA VGXを簡単に一言で説明すれば、「高性能GPUを搭載したサーバ上で仮想デスクトップを動作させる」仕組みだといえるだろう。VDI (Virtual Desktop Infrastructure)というキーワードがあるが、この仮想デスクトップ環境でGPU機能を利用できるようになったものだといえる。エンタープライズ環境でVDIを利用するメリットについてはいくつかあるが、その最大のものは「管理者の負担が軽減される」点にある。個々のクライアントPCにOSがインストールされ、それぞれにデスクトップが動作していては、ソフトウェアのアップデートやセキュリティ管理が非常に煩雑となる。ならばいっそ、デスクトップ環境そのものを仮想化してしまい、サーバ上で実行すればこうした管理負担は大幅に軽減される。ユーザーのマシンは仮想デスクトップ環境(VDI)を利用するための窓口的な存在になり、いわゆる「シン・クライアント(Thin Client)」として機能する。これがVDIだ。

ではVDIにGPUを組み合わせることで、どんなメリットがあるのだろうか? ユーザー側(含む管理者)の視点からは次の2点が挙げられる。

  • GPU機能を必要とするような高度なワークステーション環境をVDIで利用できる
  • 本来処理負担の大きいVDIの処理の一部をGPUに肩代わりさせることで性能が向上

前者については説明の必要はないだろう。これまで、CADや統計計算、3Dグラフィックス処理など、高度なコンピューティング処理を手元で行うには、高性能GPUを搭載したPCや高機能ワークステーションが必要だった。これをGPUを組み合わせたサーバでVDIを実行することで、こうしたワークステーションが手元になくても、複数のユーザーでリソースを共有しながらコンピューティング処理が可能になる。

そしてより重要なのが後者で、こちらがVGXにおける普及の鍵といえるかもしれない。VDIの処理は非常に重く、例えば数百台、数千台クラスのマシンの存在する企業において、これをすべてVDIで利用しようとすれば、多くの台数のサーバまたは超ハイエンドクラスのサーバが必要になってしまう。理由の1つはレンダリング処理やクライアントとのリモート通信における負荷で、これが同時に動作するVDI動作分だけ負荷としてかかるため、想定以上のマシンパワーを必要としてしまう。そこでGPUにある程度処理を投げることで、CPUばかりにかかっていた負担を軽減し、VDI利用がより快適になるというわけだ。一般的で処理負荷の低いタスクほどこの効果は大きく、GTCの基調講演におけるデモでは、100台以上のクライアントが1台のVGXラックサーバで動作する様子を見ることができた。

VGXの仕組みをブロックダイアグラムで示したもの。ハイパーバイザがGPUリソースや仮想マシン(VM)の制御を行いつつ、各VMはプールされている仮想GPUを直接呼び出して描画や計算に利用できる

さて、VGXにおけるNVIDIAのメリットだが、これは明確で「これまでGPUの使われてこなかった市場に新たな需要を作ることができる」点にある。前述のように一部PCやワークステーションでこそ利用されているGPUだが、サーバを含む世間一般多くのマシンでは内蔵GPU以外のディスクリートGPUが利用されるケースは少ない。最近でこそTeslaのようにHPC分野での活用が進んでいるが、このニーズの幅を広げるのがVGXの役割といえる。特にGPUとは無縁だったサーバ市場がターゲットであり、この中でも「一般的なオフィスワーカー向けの市場」でのGPU活用を増やすのがVGXのミッションとなる。

CADなどの分野のワークステーション利用も含め、いまはまだGPUの利用は少ない。この市場をさらに拡大するのがVGXの狙いとなる

このVGX戦略について説明した米NVIDIAプロフェッショナルソリューション部門VPでジェネラルマネージャのJeff Brown氏によれば「VGXはNVIDIAにとってビジネス市場を拡大する原動力になる。これまでNVIDIAのGPUを使ってこなかったようなユーザーでも、このソリューションによるメリットを享受できるようになる」と、そのポジショニングについて語っている。もちろん、サーバ統合によるリソースの効率化などで高性能GPUを搭載したクライアントの台数が減少する可能性もあるものの、それ以上にニーズ拡大のメリットが大きく、相乗効果をもたらすというのがBrown氏の意見だ。

米NVIDIAプロフェッショナルソリューション部門VPでジェネラルマネージャのJeff Brown氏

では次項で具体的にその仕組みについてみていこう。