東京大学(東大) 大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻の中須賀真一教授の研究室と次世代宇宙システム技術研究組合は、4機の超小型大学衛星をロシアのコスモトラスが運営する「ドニエプルロケット」を使ってロシア国内のヤスネ基地から「クラスター打ち上げ」(複数の衛星を同時に打ち上げること)をするアレンジを進めていたが、このたび、その打ち上げが2012年末と決定したと発表した。

4機の超小型衛星は、それぞれ大学や研究機関などが単独もしくは共同で開発しており、主に衛星リモートセンシング技術の軌道上実証を目的としている。東大からは、中須賀研究室が中心となって次世代宇宙システム技術研究組合と共同開発している「ほどよし1号機」(画像1~4)が、打ち上げられる予定だ。

画像1。「ほどよし1号機」の外観図

画像2。「ほどよし1号機」の各部

画像3。環境試験中の「ほどよし1号機」の開発モデル

画像4。電波暗室で試験中の「ほどよし1号機」の開発モデル

そのほかの3機は、名古屋大学および大同大学による「ChubuSat-1」、東京工業大学と東京理科大学および宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「TSUBAME」、九州大学の「QSAT-EOS」というラインアップとなっている。

これらの衛星はロシア・オレンブルグ州のヤスネ基地(画像5~7)のサイロ(地下発射装置)から打ち上げられる予定だ。各衛星は打ち上げ時には一辺60cmの立方体にほぼ収まる大きさで設計されており、重量は60kg弱となっている。

画像5。ロシアのヤスネ基地(earth image from Google earth)

画像6。ヤスネ基地の衛星試験棟(コスモトラス社提供)

画像7。4機の超小型衛星のチェックとロケットへの組込み作業を行うクリーンルーム(提供:コスモトラス)

これらの衛星はドニエプルロケット(画像8~10)の第3段の下部に組み込まれて打ち上げられる。同ロケットは、ロシアの戦略ミサイル「SS18」を平和転用したもので、1999年の初号機の打ち上げ以来、18回の打ち上げの内17回が成功している。

また、高精度の軌道投入、多数のクラスター打ち上げの実績を持ち、高い信頼性があるのも特徴だ。同ロケットはJAXAの「OICETS」や宇宙科学研究所(ISAS)の「INDEX」を含め、これまでに17カ国の計62機の衛星を打ち上げてきた実績を持つ(画像11)。

画像8。ドニエプルロケットのサイロからの打ち上げ(提供:コスモトラス)

画像9。4機の超小型衛星のドニエプルロケット搭載状態(提供:コスモトラス)

画像10。ドニエプルロケットの概要(提供:コスモトラス)

画像11。ドニエプルロケットの打ち上げ実績(提供:コスモトラス)

そして衛星たちは、リフトオフ(地面を離れる瞬間)から約15分後、高度500~600kmの「太陽同期軌道」(ほぼ北極と南極の上を通る南北の軌道で、各地域を通過する地方時が年中あまり変わらないという特徴を持つ軌道)に1機ずつ、わずかに異なる軌道速度で順に投入される。

東京大学の中須賀教授は、内閣府の「最先端研究開発支援プログラム」において世界のトップを目指す30の最先端研究課題及びそれを実施する中心研究者の1人に選ばれた。その最先端研究として、リーズナブルなコストや信頼度で世界をリードする超小型衛星を利用や打ち上げを含めて開発する、通称「ほどよしプログラム」を進めている。

今回の打ち上げは、将来の商用超小型観測衛星クラスターの国際展開を視野に入れ、「ほどよしプログラム」の1ステップとして海外の商用ロケットを使って超小型衛星のクラスターを実現しようとする活動の一環として、東京大学がドニエプルロケットを打ち上げるコスモトラスとの調整を進めて実現した(画像12)。

画像12。クラスター打ち上げの設計審査の様子

次世代の超小型地球観測衛星「ほどよし1号機」は、前述したようにほどよしプログラムで開発された最初の衛星だ。1機あたりの製造コストが格安な上、小型軽量で打ち上げコストも安いため、限られた予算で多数の衛星を打ち上げて衛星クラスターを構成し、観測頻度を飛躍的に高めることが可能になる。

「ほどよし1号機」は一辺60cm以内の立方体、重量60kg以下の超小型衛星で、地球観測をミッションとする。この衛星にはコンピュータ、衛星の姿勢制御を行う装置「リアクションホイール」(画像13)や衛星の姿勢制御を行うために恒星の位置を確認する「スターセンサ」、「MEMS(Micro Electro Mechanicla System)ジャイロ(角速度)センサ」やGPS受信機などが搭載され、高度な3軸姿勢制御を行うほか、無毒な燃料の「過酸化水素水」を使って軌道制御も行う。

画像13。独自開発された姿勢制御用リアクションホイールが搭載される

主な搭載機器は次世代超小型衛星用に独自に開発されたもので、衛星の製造にあたってはアクセルスペース(東大発のベンチャー企業)の協力を得ている。

「ほどよし1号機」には地上分解能約7m、観測幅約28kmの光学センサ(青、緑、赤、近赤外のマルチバンド)が搭載され、太陽同期軌道から地球を観測する予定だ。従来この分解能と観測幅の地球観測には150kg以上の衛星が使われてきたが、「ほどよし1号機」では60kgと、大幅な小型化を実現した。

前述の光学センサは、環境や災害の監視、さらにはガス田施設のモニタリングなど産業分野での利用にも適し、衛星の製造や打ち上げコストの安さと相まって、多数の衛星を使った高頻度の観測が期待されている。

また、この利用実証のため「ほどよし1号機」は打ち上げ後、環境や資源エネルギー分野を含めた内外の衛星リモートセンシング研究機関や企業と共同実証を行う予定だ。さらに2013年末頃には2号、3号、4号も打ち上げる予定で、これらの衛星とのクラスター運用(複数衛星の連携)も検討中だ。

主要諸元は以下の通り。

ミッション系性能

  • 撮影方式:プッシュブルーム方式
  • 地上分解能:6.8m
  • バンド:B(450-520nm), G(520-600nm),R(630-690nm),NIR(780-890nm)
  • 信号ノイズ比(太陽高度60度、アルベド0.5):B(57),G(74),R(80),NIR
  • 刈幅:27.8km
  • 最大連続撮影距離:179km
  • ビット深度:12ビット(データは16ビットでパッキング)

衛星バス系

  • サイズ:60x60x60cm以内
  • 質量:60kg以内
  • ダウンリンクレート:10-20Mbps
  • 発生電力:50W
  • 姿勢制御3軸制御(地球指向)

軌道

  • 軌道種類:太陽同期軌道