グーグル オンラインパートナーシップ グループ 坂本 達夫氏

国内最大規模のAndroid関連イベント「Android Bazaar and Conference 2012 Spring」が、3月24日に東京大学本郷キャンパスで開催された。同イベントで行われた講演に、グーグル オンラインパートナーシップ グループ モバイル広告担当の坂本 達夫氏が登壇。「スマートフォン時代における新たな広告収益戦略」と題し、“広告によるアプリの収益化”、“AdMobについての説明”、“『アプリ×広告』成功のポイント”の大きく三つに分け、スマートフォンアプリにおける広告ネットワークの現状などを解説した。なお、同講演で使用されたスライドは撮影禁止とされたため、本記事では写真を掲載できないことをあらかじめお断りしておく。

Android開発経験者が多く集まった講演

東京大学安田講堂の座席をほぼ埋め尽くした同講演の冒頭で、坂本氏が来場者に対して「現在Androidアプリを開発している人はいるか」と問うと、会場内のおよそ4分の1~5分の1程度の人が挙手。アプリ内広告の動向について、アプリ開発者の注目度が高いことが伺える結果となった。

まず初めに同氏は、スマートフォンが急速に普及してきてはいるものの、いまだアプリなどのコンテンツ面は発展途上で、クオリティの高いものが本格的に提供され始めるのはいよいよこれからであるとし、「コンテンツ開発者自らがハッピーになれるようなものを作ってほしい」と会場に集ったアプリ開発者に向けてメッセージを送った。さらに、Googleはそれを後押しし、良いものを作った開発者が継続的により良いものを世に出していける世界を作っていきたい、と宣言。それを実現するのが同社の提供する広告ネットワーク「AdMob」であるとした。

無料・有料・アプリ内課金・広告の組み合わせが大事

アプリに広告を入れることによるメリットを説明する前に、坂本氏は、調査会社によるスマートフォンユーザーの利用動向調査を提示。有料・無料それぞれのアプリをダウンロードしたことがあるか、という調査では、100%近い無料アプリのダウンロード経験に対し、有料アプリはその半数以下の割合で、有料アプリをリリースする場合はすでにターゲットユーザーが半分以下に絞られてしまうと指摘。ダウンロード数に至っては、無料アプリが1ユーザーあたり平均27.7本であるのに対し、有料アプリでは平均4.8本と大幅に低下していることから、有料アプリでユーザーを集めるのは困難が多いとした。

有料アプリよりも“無料アプリ+広告”の方がメリットが大きいと判断できる一例として、テクノードのパズルゲーム「Touch the Numbers」を紹介。同アプリでは広告により月間数百万円から1,000万円余りの収益を上げており、たとえば85円の有料アプリで同規模の収益を得るには、単純計算で毎月15万ダウンロードが必要とのこと。無料アプリよりはるかにダウンロード数が少なくなりがちな有料アプリで、この数字は現実的ではないとしている。

広告を入れたとしても、ダウンロード数が伴わなければ収益を上げるのは難しいのではないか、という懸念については、「Touch the Numbers」におけるダウンロード数と広告収益の推移をグラフで示した。それによると、最も瞬間ダウンロード数の多いアプリリリース初期でも広告収益はそれほど上昇せず、リリース後、ダウンロード数が右肩下がりになっているところで広告収益が伸びるという逆転現象が発生していることがわかる。つまり、広告収益は必ずしもダウンロード数に比例せず、広告収益を上げるにはダウンロード数以外の別の要素に着目すべきだという。

同氏は、広告収益を最大化しているアプリ提供企業は、“無料・有料・アプリ内課金・広告”という四要素をうまく組み合わせていると話し、さらにもう一つ、世界的なヒットとなっているアクションゲーム「Angry Birds」のモデルケースを例に挙げた。

最初にリリースした「Angry Birds」はiOS版の有料アプリのみだったものの、その後Android版をリリースするにあたって試験的な意味で“無料アプリ+広告”で提供を開始したところ、広告で700万ドルの収益を得る結果になったという。これを受けて同アプリの開発元であるRovio社は、広告のポテンシャルが高いと考え、iOS版でも広告ありの無料版をリリースすることになったとのこと。「Angry Birds」の場合は膨大なダウンロード数も背景にあるとはいえ、一般的にも単に有料で提供するのではなく、“無料アプリ+広告”はもちろん、“有料+無料アプリ+広告”、“無料アプリ+アプリ内課金+広告”などの組み合わせによって、可能性が大きく広がると語った。

AdMobの“自社広告表示機能”の活用も収益向上に効果的

講演の後半では、実際にアプリに広告を導入するにあたり、注意すべきいくつかのポイントをレクチャーした。いったんアプリをリリースしたあとに広告スペースを設けるのは、アプリのレイアウト・デザインの修正に大きな手間がかかり、また、初期バージョンでは広告がなく、バージョンアップ後に広告を表示することになると、ユーザーに対してもネガティブイメージを抱かせることになりかねない。そのため、リリース当初から広告を表示することを前提としたUI設計を行うのは基本であるという。

さらに広告を表示する際には、主にユーザーの心理的影響を考慮して、“アプリ本来の目的を妨げない”、“デザイン上の無理をしない”、“ミスタップを誘発させない”など、犯してはならない原則を明示。そのアプリのダウンロード数がピークに達し、その後減少してゼロに近づいていく“ライフサイクル”を意識し、ユーザーの使用頻度を向上させるためのアップデートを行ったり、一つのアプリでの広告収益が低下したタイミングで別の新しいアプリをリリースするといった戦略も重要であるとした。

特に別の新しいアプリをリリースするタイミングについては、AdMobが備える“自社広告表示機能”を利用できるとアピール。既存アプリ内で自社の新アプリの広告を表示させることで、既存アプリのトラフィックを有効活用でき、新アプリのスタートダッシュに最も効果的であるとしている。

複数の広告ネットワークを切り替えられる「Ad Network Mediation」が公開へ

AdMobとは別に、モバイル広告におけるGoogleの今後の取り組みとして、「Ad Network Mediation」という新しい広告ソリューションの正式版を近日中に公開すると発表した。

現在、モバイル環境で利用可能な広告ネットワークは、AdMobのほかに、iAd、Mojiva、InMobiなど複数存在しているが、季節などによって各広告ネットワークの広告在庫が増減するタイミングが異なるのだという。アプリ提供側としては、採用する広告ネットワークを一つに絞らず、複数の中から柔軟に切り替えて表示することで広告収益を最大化したい。しかし、広告ネットワークを切り替えるには、アプリの修正とビルド、マーケットへの公開申請を再度行わなければならないなど、手間がかかりベストなタイミングでアップデートするのも難しい。「Ad Network Mediation」を利用することで、Webの管理画面上で操作するだけでアプリ内の広告ネットワークの切り替えが可能になるため、手間やリリースタイミングの問題を解決できる。すでに広告付きのアプリを提供している企業も、これからアプリ提供を検討している企業にとっても、注目のソリューションになりそうだ。

(記事提供: AndroWire編集部)