米Palmの元CEOで、同社を米Hewlett-Packard (HP)が買収してからはHPのパーソナルシステム事業部(PSG)の製品担当SVPを務めたJon Rubinstein氏がHPを退社したことが、1月27日(現地時間)に判明した。All Things Digitalなどが同日に報じている。Rubinstein氏はApple在籍時代に大ヒット商品となった「iPod」を開発した人物であり、モバイルデバイスの世界ではその活躍で広く知られている。
Rubinstein氏と故Steve Jobs氏との関係はNeXT在籍時代から続いていたが、いったんNeXTを離れた後、1997年のAppleによるNeXT買収を機にJobs氏の下へと戻り、Appleのリストラを進める同氏の業務を支えた。Rubinstein氏の功績はシンプルで使いやすいユーザーインターフェイスや製品デザインに集約されており、例えばiMacやiPodなどの後の大ヒット商品を生み出す原動力となった。そして2006年、iPhoneリリースを目前に、同氏はAppleを去っている。
その後、投資会社のElevation Partnersを経て、その投資事業のつながりから2007年に米Palmへと参加している。同氏のPalmでの役割では製品の研究開発であり、2009年にはLinuxをベースにしたモバイルOS「webOS」と、同OSを搭載したスマートフォン「Palm Pre」をリリースした。Palm OSの開発に行き詰まったPalmでは、OS事業を日本のAccessへと売却しており、webOSならびにPalm Preのリリースを経て、Palmの主力事業はwebOSへと移っていった。なお、このwebOSデビューとなる2009年に、Rubinstein氏は長年Palmを率いてきたEd Colligan氏に代わり、同社CEOへと就任している。
そして2010年4月、HPによるPalmの買収が発表された。HPはPalm買収により、出遅れていたスマートフォンなどのモバイルデバイス事業を強化し、その中核であるwebOSを同社のさまざまなデバイスへと展開していく計画を打ち出した。だが2011年8月、当時CEOだったLeo Apotheker氏は高収益事業へ注力するとして、PSG事業部の抜本的見直し計画を発表し、PCを含むコンシューマデバイス事業からの撤退を示唆した。最終的にこの計画はApotheker氏の事実上の更迭で取り止めとなるものの、webOS事業からの撤退という決定は覆らなかった。そして昨年2011年12月、HPからwebOSのオープンソース化が発表され、さらに今年9月に最初のバージョンとなる「webOS 1.0」を提供する予定であることがアナウンスされている。
コンシューマ向けスマートフォン事業からの撤退とwebOSのオープンソース化で、Palm買収で得た資産のほとんどを手放す形となったHPだが、Rubinstein氏の退職はこうしたなかで発表された。All Things Digitalによれば、Rubinstein氏の退職は2010年のPalm買収の時点ですでに決定されていたことであり、買収時の契約だった「1年ないし2年の在籍期間」という約束を果たしたに過ぎないという。さらにRuibinstein氏は同誌に対して「4年半のwebOS開発を経て、十分な休息を取りたい」とコメントしており、ライバル他社にすぐ移籍するようなことはなく、しばらくはオフを満喫する意向であるとも話している。
スマートフォンでは老舗のPalmが、iPhoneと同様のルック&フィールを持った「webOS」「Palm Pre」をリリースした際には、元Appleのトップ開発者だったRubinstein氏が開発を指揮していたということもあり、その類似性を含めて大きな話題となった。しかも、webOS開発中にRubinstein氏が古巣であるAppleから元同僚を次々と引き抜いていたことで、Steve Jobs氏がPalmに対して苦情を申し立てたという話も出ていた。iPhoneが今日のような成功を収めるまで、Jobs氏としては複雑な気分だっただろう。