巨大スパコンの最大の問題は消費電力と冷却であり、京センターでは、環境配慮の点から各種の省エネ技術を取り入れている。

京センターの環境配慮の概要

京コンピュータのCPUとインタコネクト用のICCという2大LSIは水冷であるが、メモリDIMMや電源、そしてストレージシステムは空冷である。このため、計算ノードを設置する計算機室2には下の階にある空調機械室2から冷気と冷却水を供給している。次の図に示すように、この空気はコールドアイル側の床から吹き上げ、計算ノード筐体を冷却して反対側のホットアイルに抜ける。そして暖まった空気は天井から計算機室の両側に設けられたリターンチェンバを通って空調機械室に戻り、空調機で冷却されて循環する。これはグローバルファイルシステムを設置する計算機室1でも同じであるが、こちらは空冷だけである。

計算ノードの冷却

そして、高断熱化ガラスの使用や屋上や壁面の緑化で外部からの熱の侵入を減らし、最小限換気で冷気を捨てないなどの方法で空調電力を減らしている。

結果として、(マシンの電力と空調、照明などを含めた計算機室全体の電力)/(マシンの電力)で計算されるPUE(Power Usage Effectiveness)を1.3~1.5に抑えているという。なにしろ、マシンの電力が10MWを超えるので、PUEの0.1の差は1MW以上であり、年間の電気代で1億円の差が出る。

普通の計算センターではPUEは2.0前後と言われ、それに比べると良い値であるが、東京工業大学(東工大)のTSUBAME 2.0は1.28、寒冷地にデータセンターを建設し外気を使って冷却するGoogleやFacebookの巨大データセンターでは1.2を切ると言われているのに比べると、京センターのPUEはもうすこし頑張って欲しいところである。

ポートアイランドは埋め立てで作られた人工の島であるので、地震発生時の地盤の液状化や揺れの増幅が心配である。また、建物は無事でも地盤が不均一に沈下して床が傾いてしまうと使い物にならなくなってしまう。

京センターの構造の概念図

そのため、液状化の起こる層にサンドコンパクションパイルを打ち込み1平方メートルあたり20トンの荷重に耐えるように地盤の改良を行っている。そして、張り出しをもった沈下抑制杭を海面下34mまで打ち込み、不同沈下を抑えている。

沈下抑制杭

FEMでの計算によれば、これらの対策で最大傾斜は1/1000以下という仕様を満足できるとのことである。

京センターの建物の構造

計算機室は柱の無い空間となっており、鉄骨構造で強度を確保している。そして重い計算ノードを載せる床を支えるため、その下の空調機械室は斜めのトラスを入れて強度を高めた構造となっている。

地震の揺れに対する対策としては、積層ゴムによるアイソレータで建物に揺れが伝わるのを抑え、鉛ダンパーと鋼製ダンパーで揺れのエネルギーを吸収するという構造を取っている。これにより、大地震の場合でも計算機室の床の水平応答加速度は200Gal程度に抑えられるとのことである。

京センターの免震構造

積層ゴムアイソレータと水平変形時の様子

鉛ダンパーと水平変形時の様子

鋼製ダンパーと水平変形時の様子

このように地震の場合に地盤が液状化しない、揺れから建物を守るという点については配慮がなされているが、先の東日本大震災では津波が大きな被害を引き起こしたので、津波が起こった場合はどうなるのかを質問してみた。

構造概念図に見られるように、ポートアイランドの地面は海抜6~7m程度の高さがあり、これより低い津波の場合は問題ない。これを超えると地下にある空調機械室1に浸水するという回答であった。

神戸市の想定では、東南海、南海地震による津波の高さは満潮時でも2.5mである。東日本大震災を踏まえ、神戸市は暫定的に2倍の高さの津波に耐える防災対策を進めるとしているが、5mの津波としても、京センターの海抜は十分な高さがあるということになる。

また、京センターは隣が海という環境であり、事務研究棟側は窓を開けると潮風が入るが、計算機棟の空気は除塩フィルターを通して塩分を除去しているので塩害の心配はないとのことであった。