Bluetoothエコシステムの拡大

Bluetooth low energy技術は、電力的制約が厳しいために従来のBluetooth技術が使えない用途向けに設計されました。相互運用性が保証された超低消費電力の無線技術が電子機器設計者に提供されたのは始めてで、今後、数百にのぼる新たな用途がどんどん登場するでしょう。

早期の用途として考えられるいくつかについては、Bluetooth SIGがBluetooth v4.0の採択に続いてリリースを予定している一連の「プロファイル」に示されています。プロファイルは、汎用チップとしてのBluetooth low energyチップを、PUID(パーソナル・ユーザー・インタフェース・デバイス、腕時計など)、リモコン、近接アラーム、バッテリ状態モニタ、心拍モニタなどの特定用途向けに最適化するものです。今後、血糖値や血圧、サイクリングのケイデンス、ペダリングの強さなどをモニタリングできる、健康・フットネス関連プロファイルもリリース予定です(図3)。

図3:Bluetoothコア仕様バージョン4.0は、Bluetooth low energy技術のアーキテクチャを定義しています

では、Bluetooth low energy技術が、近接アラームとインドア・ロケーション(「インドアGPS」とも呼ばれる)という今後考えられる2つの用途でどのように使われるか見てみましょう。

Bluetooth v4.0チップでは、従来のBluetooth技術よりほんのわずかに高いコストで大幅に多彩な機能が提供されるため、携帯電話やモバイルパソコンのメーカーで採用が進んでいます。携帯電話メーカーは、定期的に携帯電話と通信を行うBluetooth low energy搭載腕時計などのセキュリティデバイスを提供できるようになります。携帯電話が腕時計の通信距離圏外に出てユーザーが身に付けている時計と通信できなくなった場合、自動的にロックがかかり、腕時計が警報を発します。このため携帯電話をうっかり置き忘れたりすることもなくなり、盗難防止にも役立ちます。

モバイルパソコンでも近接アラームの利用が可能です。ユーザーが範囲外に移動するとパソコンにロックをかける(また、例えばユーザーがパソコンに近づいて腕時計のボタンを押すことでロックが解除され利用可能となる)という利用方法です。また、子供向けの安全装置としても利用可能です。子供が圏内にいる場合には子供の腕時計(あるいはキーホルダーのような近接タグ)が親の腕時計(あるいは携帯電話)と通信を行い、子供がどこかに行ってしまった場合にはアラームが鳴るといった用途が可能でしょう。

Bluetooth low energyセンサは(Bluetooth low energyデバイスは)、低コストで維持費も安い(バッテリ交換頻度が低い)ため、公共施設での普及が促進するでしょう。主な用途としては、(GPS信号のない)インドア・ロケーションが考えられます。大規模な公共建物(空港や駅)の周辺に設置されたセンサ(Bluetooth low energyデバイス)が施設に関する情報を常時発信し、範囲内を通過するBluetooth low energy搭載携帯電話がその情報を所有者に表示します。

センサ(さらに、このようなデバイス)はフライト時間やゲート、施設案内、近くのショップのキャンペーン情報なども送信(発信)できるでしょう(図4)。

図4:Bluetooth low energy搭載センサを空港ターミナル周辺に設置し、施設に関する情報を常時発信できます。圏内を通過する携帯電話にその情報を表示することも可能です

最後のステップ

Bluetooth low energyチップ製品の設計がかなり進み、サンプルや開発キットをリリースしている半導体ベンダもあります。Nordic Semiconductorなどの企業では、すでにチップはBluetooth v4.0規格に適合しています。

2011年1月には、NordicのBluetooth low energyチップ製品「μBlue」で最初の製品となる「nRF8001(およびμBlueプロトタイプキットとソフトウェア開発キット)」がリリースされました。

12.5mA以下のピーク電流と、12μAという低い接続時の平均電流(1秒の接続間隔)を提供するnRF8001は、業界でも低電力のBluetooth low energyソリューションに位置づけられます。

このチップは、無線、リンクレイヤ、ホストを1つのエンドプロダクトリスティング(EPL)に集積したBluetooth v4.0 low energy完全準拠のソリューションで、Bluetooth搭載の新たなエンドプロダクトを追加のリスティング料金なく簡単に設計可能です(図5)。

図5:Nordic SemiconductorのμBlue nRF8001は、腕時計、センサ、リモコン、その他の用途向けの周辺機器向けソリューションで、市場に登場する初のBluetooth low energyチップの1つとなります

Bluetooth low energyの半導体がいくつかのサプライヤから提供されるようになり、ジグソーパズルの最後のピースとなるプロファイルも間もなく登場します。Bluetooth SIGは、近接アラームなどの最初のプロファイルが近々、提供開始となるとしています。電子機器設計者に完全準拠のチップが提供され、近接用途の製品開発が開始されます。

Bluetooth low energyが商品化にいたるまでには、ある程度の時間を要しています。しかし、完全準拠の半導体がもうすぐ市場に出回り、Bluetooth low energy搭載の製品が次々と登場するでしょう。例えば、Analyst IMSは、Bluetooth low energy搭載デバイスの年間販売台数が2013年までに10億台になると予測しています。これは、無線技術採用の速度としては過去最高です。

著者
山崎光男
Nordic Semiconductor 日本地区セールス・マネージャー
なお、Nordic SemiconductorはBluetooth low energy無線規格の策定団体の一員である