「次世代の腕時計、スマートウオッチの市場を切り拓くパイオニアブランドとして私たちが選んだのは、G-SHOCKです」。スイス・バーゼルにて開催中の「BASELWORLD 2011」におけるカシオ計算機カンファレンスで、同社営業本部長 中村寛氏はそう述べた。
カシオが掲げる今年の展示テーマは、「Faces Inspired by Electronics」。エレクトロニクス技術により発想されたフェイス(デザイン)、それは世界初のオートカレンダーを搭載したデジタルウォッチ「カシオトロン」を発売した1974年以来、カシオのプロダクツが長年貫き、培ってきた哲学でもある。これを今あらためて掲げる意味、それは紛れもなく「カシオが腕時計にまたひとつの革新をもたらす」ことを宣言するものだ。
ご存じのとおり、カシオは腕時計だけでなく、デジタルカメラや電子楽器、電子辞書など実に多様な製品を開発し、さらに最近では画像をアートに変換するネットサービス「イメージングスクエア」を展開するに至っている。これらの開発から生まれる技術や視点こそ、カシオが他のスイス勢と明確な一線を画す部分といえるだろう。では、カシオが腕時計にもたらす次の革新とは何か。その答えが「スマートウォッチ」だ。
「腕時計本来のデザイン性・利便性を崩さずに、スマートフォンを介して現在時刻を修正する機能を備えた腕時計」。中村氏は、スマートウオッチをそう定義する。
時計はクォーツによって精度が向上し、デジタルによって多機能化し、電波時計の登場で時刻修正がある程度不要になった。しかし、電波時計は対応地域が限られており、ワールドワイドではない。また、タイムゾーンの自動判別もできない。そこで、スマートウオッチはスマートフォンと連携することで、この弱点を克服する。加えて、アプリケーション開発により、多くの便利な機能を追加できるという。会場では、腕時計からスマートフォンの呼び出し音を鳴らして、置き忘れたスマートフォンを発見するデモ、そして、鳴り出した電話の呼び出し音を腕時計の盤面をタップすることで止めるデモが行われた。これらを実現するスマートフォン用アプリケーションは、Android MarketおよびApp Storeから入手できるようになる予定だ。
カシオでは、モバイルフォンとの連携を4~5年前から継続的に検討してきたという。市場にはすでにモバイルフォンと通信可能な腕時計もあるが、いずれも数日から一週間でバッテリーを充電する必要があった。一方、カシオのスマートウオッチは、通信技術にBluetooth Low Energyを使用することで、飛躍的な省電力を実現。通常のコイン型電池1個で約2年(連携時間12時間/日)という、一般的な腕時計と遜色のない電池寿命を獲得したという。価格に関してもリーズナブルな価格で提供できるとのことだ。なお、Bluetooth Low Energyは、現在ヘッドセットで使用されているBluetoothに今後統合され、世界標準となる可能性が高いとされている。
このシステムが最初に搭載されるのは、世界で5,000万個以上の出荷数を誇るカシオの代表ブランド「G-SHOCK」シリーズとなるとのことだが、中村氏は「近い将来、アナログウオッチを含むその他のブランド「Baby-G」「EDIFICE」「SHEEN」「OCEANUS」「PROTREK」にも基本性能を搭載していきたい」と意気込みを語った。
カシオ独自の「ファンづくり」マーケティング
カシオ計算機 時計戦略部次長 田中徹氏は、各ブランドにおける製品展開についてスピーチ。TOYOTA LAND CRUISERチーム(G-SHOCK)やREDBULL RACING(EDIFICE)、山岳気象予報士(PROTREK)など、各分野のエキスパートによる意見を積極的にフィードバックして性能・耐久性のさらなる向上、デザイン性との両立、そして各ブランドのポジショニングを図っていることを強調した。
先に挙げた各界のエキスパートのほか、ミュージシャンやアスリートたちにもカシオのファンは数多い。そして、彼らの語るこだわるポイントや腕時計にまつわるストーリーに共感したファンたちもまた、そのブランドのファンになっていく。このように熱狂的なファンの輪を育んでいくことが、カシオ独自のモノ作りとマーケティングの根幹となっているのだ。
その一環として、G-SHOCKの歴史と魅力を、スポーツ・音楽・ファッション・アートというフィルターを通して伝えるカンファレンスと、世界観を表現するパーティーで構成されたワールドツアー「SHOCK THE WORLD」を今年も開催。新たにインド(すでに開催)、コロンビア、ロシア(予定)などを加え昨年実績17ヶ国を超える国々を舞台に展開するという。
「情報発信力のある世界の主要都市を起点に、その他の地域をキャンペーンやショップ展開で幅広くつないでいく。世界中のファンの方々、バイヤーの皆さんに向け、グローバルブランドとしての情報発信力を強化していきたい」と語る田中氏。地域ごとにローカライズされたショップ店頭の訴求イメージをはじめ、キャンペーンのプライズを全世界で統一することも考えているという。新技術スマートウオッチや新しいフェイスデザインだけでなく、その戦略も含めて、今年もカシオから目が離せない年になりそうだ。