ARMベースとPowerPCベースのMCUを発表

2011年3月3日、フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンは都内で"フリースケール・マイコン・サミット in 東京"を開催したが、これに先立ち記者発表会を行い、同社のCortex-M4ベースMCUの新ファミリである「Kinetis K50」と、PowerPCベースの新しい「PXシリーズ」4ファミリの発表を行った。まずはこちらをご紹介する。

最初にデビット・ユーゼ社長(Photo01)の簡単な挨拶の後、本国から今回のサミットのために来日した本国Freescale SemiconductorのReza Kazerounian氏(Photo02)が挨拶を行った。

Photo01:後に開催されたサミットの冒頭挨拶では「マイコンサミットを世界に先駆けて日本でまず実施できたことを大変に喜ばしく思う」と述べていた

Photo02:Reza Kazerounian博士(Senior Vice President and General Manager, Microcontroller Solutions)。FreescaleのMCU部門の総責任者である

氏は1978年(Motorola時代の6801)から既に30年の歴史がある、と同社を説明した後に昨今のトレンドとしてより高性能で、スケーラビリティがあり、省電力で、しかも使いやすい製品が求められるという状況であり(Photo03)、特に日本では高レベルの統合が要求されるとしている(Photo04)。

Photo03:この要求はまぁ今に始まったことではない。ただ、Easy of Useの観点から顧客にCortex-Mの導入を強く求められた結果が現在のラインナップとなっている

Photo04:日本はそもそも多くのMCUベンダが存在しており、すでにがっちりマーケットを握っている、ある種欧米とは全く異なる状況であり、ここに食い込むためにはより高いレベルの性のや統合が必要になる、という話であった

ここでスピーカーはARM日本法人であるアームの西島社長に移った(Photo05)。まず西島氏は2007年からのCortex-Mシリーズの出荷状況を簡単に紹介しつつ、2010年は第3四半期までで8000万個を出荷しており、通年では1億個を超えることを紹介した。

Photo05:最近はARM以外のイベントでやたらとお目にかかるアームの西嶋貴史氏。まぁこれだけ色々なメーカーがARMのコアを採用するようになれば、それも当然かもしれないが

Photo06:Cortex-M3の発表が2004年で、そこから3年で実際に搭載製品が少しずつ売れ始めた状況であるが、そこからさらに3年を経過してやっと弾みがついた形だ

ただ氏によれば「MCU全体から見れば、まだたいしたシェアではない」としており、同社の目標である「2014年までにMCUマーケットの20%以上を取る」を実現するためには、大雑把に言って出荷量を10倍まで引き上げなければならない、としている。このためにはFreescaleを初めとする多くの半導体ベンダにCortex-Mシリーズを採用して貰わねばならないのだが、今度はそこでベンダごとに集積する周辺回路の違いにより、互換性が損なわれる事が問題になる。そこでARMはCMSIS(Cortex Microcontroller Software Interface Standard)を強力に推進しており(Photo07)、FreescaleのKinetisもこれに準拠している、と紹介があった。

Photo07:この非互換性だが、例えばARM7/9ベースのMCUの場合、クロックジェネレータの扱いが全く標準化されておらず、なのでOSなりプログラムなりのスタートアップルーチンがMCUごとに異なる、という状況に陥っていた。CMSISはこうした事に対する反省とも言える

ここで再びKazerounian氏が登壇し、今回の記者発表会の主題である、4つの新しい発表を紹介した(Photo08)後、説明をJeff Bock氏(Photo09)に譲った。

Photo08:今回はもっぱらKinetisがメインではあったが、何気にPXシリーズも大きな動きである

Photo09:Jeff Bock氏(Director of Marketing, Industrial & Multi-Market Microcontrollers)。実は氏に会ったのは2006年のFTFが最初で、当時はProduct Marketing Managerだったので一段昇進したことになる。

さて、ここからが本題である。今回まず紹介されたのが、K50ファミリである。FTF Japan 2010のレポートの中ではK50を「医療機器向け」と紹介したが、何をもって医療機器向けなのか、という話がもう少し具体的に語られた。K50ファミリのラフな分類はPhoto10に示す通りであるが、実はこれだと話が良くわからない。が、後で行われたサミットの方で出てきたスライド(Photo11)を見ると判りやすい。K50ファミリは、OPAMPとTRIAMP(トランスインピーダンス・アンプ)を搭載しているのが他のファミリと大きく異なる。OPAMP/TRIAMPを搭載する製品はこれが初めてというわけではなく、既に同社のFlexis 8bitのS88MMなどには搭載されているが、Kinetisシリーズでは初搭載となる。

Photo10:これだけみると、何が他のファミリと異なるのか良くわからないのは事実だ

Photo11:トランスインピーダンスアンプは、電流を電圧に変換するタイプのアンプ

これにより、様々な医療機器で要求する多様多種のセンサを容易にハンドリングできるようになる(Photo12)ということから、K50の最初のターゲットの1つが医療機器向けである、という話であった。もちろんこうしたセンサは医療機器以外にも多く利用されており、こうした用途にも適するとの事である。Photo13がK50ファミリの内部構造であるが、大きな相違点はやはりアナログ回路の充実であり、OPAMP/TRIAMP以外にも多くのアナログ周辺機器が搭載されている。このK50ファミリは、今年第2四半期にES出荷開始、量産は第3四半期になるとしている(Photo14)。

Photo12:主要なターゲット機器。上から血糖値計/血圧計/心拍系/酸素濃度計/携帯型心電図/患者モニタ/移植装置/臨床機器、となる

Photo13:その他の回路の特長の1つとして、例えばA/Dコンバータが16bit解像度である事を挙げていた。「他のベンダは通常10bitとか12bitだ」と言っており、まぁ実際そうなのだが、16bit解像度が必要になるケースはそう多くない、という事情もここには介在する。とは言え、医療機器だの精密テレメトリだのをやろうとすると、12bitではしばしばラフすぎるわけで、そうしたケースには適しているだろう

Photo14:αサンプリング、つまり特定の顧客向けのごく少数のサンプル出荷開始はもうすぐ(近日中)とかのレベルで、幅広い不特定向けのES出荷が第2四半期となるようだ