先日、米Verizon WirelessによるiPhone 4の販売が開始され、米国でのAT&TによるiPhoneの独占販売体制が崩れたが、それと同時に劣悪だといわれるAT&Tのネットワーク回線を嫌ったユーザーがライバルキャリアへと乗り換えるのではないかとの予測がなされていた。だがAT&Tによれば、現在までのところ目立った顧客流出は起きておらず、その動向は想定の範囲内だという。

米国でのVerizon WirelessによるCDMA版iPhone 4の販売が開始されたのが2月10日、わずか1ヶ月前の出来事のため、AT&Tでの2年縛りが解けるのを待つユーザーもいると考えられ、現時点で判断を下すのは早計かもしれない。だが米Wall Street JournalがAT&T幹部のコメントとして3月3日(現地時間)に報じたところによれば、こうしたユーザーの動きはほぼ想定の範囲内に収まっているという。同社モバイル部門CEOのRalph de la Vega氏は2日に米カリフォルニア州サンフランシスコ市内で開催されたMorgan Stanley Technology Conferenceの中で、具体的な数字こそ提示しなかったものの「語るにはやや早い段階だが、いまのところいかなるサプライズもない」と述べている。一方で情勢は流動的だとして、もうしばらく様子を見る必要があるとも付け加える。

Wells Fargoの予測によれば、Verizon WirelessでのiPhone発売の影響は軽微だったとして、AT&Tの2011年第1四半期の顧客減少数は当初予測の22万5000から15万へと軽減されるという。以前にあるWebサイトが行った調査では、AT&Tユーザーの16%がVerizon Wirelessへの乗り換えを予定しているという報告を行っている。だがユーザーの意向とは別に、実際にキャリア乗り換えといった行動を起こす割合は少ないのが実態のようだ。これは1キャリアのみからiPhoneが提供されている日本などの市場でも、同じことがいえるかもしれない。AT&T自身はiPhoneの独占供給契約が切れるのを目前に、Android端末の充実やWindows Phone 7端末の提供など、iPhoneのみに依存しない体制を築き、来たるべき日に備えて着々と準備を進めてきた。Wells Fargoの予測の修正は、こうした成果を反映したものと考えられる。

こうしたiPhoneを巡る攻防の裏で、AT&TとVerizon Wirelessはデータ通信料金を巡ってもつばぜり合いを繰り広げている。例えばAT&Tでは2月中旬、それまでテザリング込みで月額45ドル(データ通信料金25ドル+テザリング料金20ドル)の2GBだったデータ通信プランの上限を4GBまで引き上げている。AT&Tのデータ通信プランは200MB上限で月額15ドル、または2GB上限で月額25ドル、あるいはテザリング可能な4GB上限の月額45ドルという、ライトユーザーとヘビーユーザーで使い分けが可能な階層型(Tiered)プランとなっている。もし上限を超過した場合は、1GBあたり10ドルの追加料金を徴収されるというものだ。一方でVerizon Wirelessはスマートフォン向けに月額30ドルで無制限というデータ通信プランのみを用意しているが、同社ではこれを30-50ドルの幅でAT&T風の階層型プランへと転換し、無制限プランを廃止する方向で検討しているという。ヘビーユーザーの増加に対応したものだと思われるが、これについてde la Vega氏は「長期的視点で業界にとってメリットのあること」とコメントしているという。

※記事の修正とお詫びについて

3月4日付けで掲載した本記事において、当初「AT&Tのデータ通信料金が4GBで月額25ドル」と表記しておりましたが、実際にはAT&Tのスマートフォン個人ユーザー向けデータ通信料金プランは3段階存在し、月額15ドルで200MBまでの通信が可能な「DataPlus Personal」、月額25ドルで2GBまでの通信が可能な「DataPro Personal」、DataProにテザリング料金20ドルを加えることで月額計45ドルの2GBまでテザリングを含めたデータ通信可能な「DataPro Personal with Tethering」の計3種類となっています。詳細はAT&Tの料金メニュー表(PDF)をご覧ください。今回、2月中旬にAT&TよりDataPro Personal with Tetheringを利用するユーザーにSMS経由でのメール連絡があり、このデータ通信容量の上限を2GBから4GBに引き上げた旨の発表が行われました。ここで、現在でもDataPro Personalの料金プランは2GB上限の月額25ドルのままで、4GBの対象となるのはDataPro Personal with Tetheringの月額45ドルのプランのみとなります。ご迷惑をおかけした方々にお詫びし、訂正させていただきます。

なお、こうしたAT&Tの施策は本文での解説にもあるように2月10日の米国でのVerizon WirelessからのiPhone 4販売開始を受けてのものとみられます。Verizon Wirelessでは現在、iPhone 4契約者に対して月額29.99ドルの無制限データ通信プラン加入を義務付けていますが、これはあくまで期間限定のオプションだと明記しています。同社では月額30-50ドル程度でAT&T型の階層型料金プラン導入を予定しており、現行の無制限でのデータ通信はこのときに廃止され、「容量キャップ」と呼ばれるデータ通信量の上限が設定されます。もともとAT&Tでは月額30ドルでのデータ通信無制限プランを導入していた状態から容量キャップ制へと移行したため、Verizon Wirelessもこれにならった形となります。AT&Tでは当初iPhoneでのテザリングを許可していませんでしたが、この容量キャップ制への移行でテザリングを料金プランの選択で可能にしたという経緯があります。ただ、Verizon Wirelessは現時点の月額30ドルの無制限データ通信プランでもテザリングの利用を許可しており、ここがAT&Tとの最大の違いになります。これがもし、月額30-50ドルの幅で容量キャップ制へと移行した場合でも、おそらくテザリング機能はすでに料金に組み込まれており、同社モバイルブロードバンドの料金プランと比較して、50ドルで5GB程度の容量キャップが設定される可能性が高いとみられます。AT&Tの45ドルで4GBという金額の引き上げは、おそらくこれを想定した対抗料金である可能性が高いでしょう。