ロビーでの撮影が終わり、次はリハビリルームへ移動。ここではリハビリに使う様々な運動器具やベッドが設置してある。撮影に入る前にチームメンバー全員が集まり、誰がどの機材を使って撮影を行なうかを打ち合わせていた。他のフォトグラファーの写真と似通った写真がiStockphoto内に出回らないようにするため、このような事前のミーティングが必要なのだ。

あるフォトグラファーが上半身のリハビリに使う機材を使って撮影を行なおうとしたとき、医師役のモデルが気を利かせて「機材メーカーのロゴが写ってしまうので、白い画用紙で隠すか?」と提案をしたが、そのフォトグラファーは「ノープロブレム! ロゴなんて『Photoshop』ですぐに消せるさ」と笑顔で答えていた。どのようなクライアントに対しても、問題なく写真が売れるよう、ロゴを消すのはストックフォトにおいては常識だ。

リハビリルームで歩行練習をするシーン。後ろに何気なく置かれている車椅子も、フォトグラファーが指定したもの

運動器具の座り方に関しても細かい指示が出された。それに合わせスタイリストも髪や服装のチェック

最後の撮影現場は診察室。この部屋は非常に狭く、8畳程度しかない。そこでフォトグラファーは診察室に入らず、ドアを開放して焦点距離100mm程度のレンズを使って廊下から撮影を行なっていた。診察室では医師がカルテを書いているシーンや、医師と患者が会話をしているシーンなどの撮影が行われた。卓上にあるレントゲン写真を貼り付けるための装置(ライトボックス)は、電源は入っているもののレントゲン写真は貼られていない。これもストックフォトならではの撮影手法だ。写真を購入した人が好きな写真を合成できるように、あえてなにも写真を貼らずに撮影しているのだ。

被写体はあくまでも医師役のモデルだが、机の上の小物にも気を配る

医師が手に持つ書籍は、表紙が見えない角度になるように指示が出されて

撮影を終えると、すでに外は夕暮れ時。すると、あるフォトグラファーが「屋上で撮影をしたい」とリクエスト。彼は病院関係者に先導され、看護師と患者役のモデルを連れ屋上に上がった。ここでは入院患者が退院できる日を待ちわびる様子や、看護師に付き添われて退院するシーンなどが撮影された。このようなシーンを撮影する場合、太陽が真上にある時間よりも多少日が傾いた頃のほうが雰囲気が出てくる。iStockphotoのトップフォトグラファーともなると、たとえ撮影会場が屋内でも、常に屋外の光量まで考えて時間配分に気を使っているのだ。

屋上での撮影。あえてこの光量で撮影しているため、ストロボを使うよりもレフ板のほうが効果的

正面だけでなく、後ろ姿も撮影

撮影した写真をモデルに見せながら、次に撮りたいポーズを指示する

患者と看護師役のモデルに笑顔を指示。こうすれば退院しているシーンのように見える

すべての撮影を終えた後、あるフォトグラファーに東京で9日間に渡り開催された「iStockalypse」について話を訊いた。彼は語りながら、今回撮った何枚かの写真を見せてくれた。それらの写真のなかには東京の街で撮ったスナップ写真や、工場で働く人々の写真、撮影スタジオで撮った女性モデルのアーティスティックな写真、静物写真などがあった。どの写真も雰囲気が大きく異なるのだが、彼は「すべて僕が今回のiStockalypseで撮影した写真だよ。いい仕事ができたから、これらの写真はきっと利益を生んでくれるだろう」と微笑みながら語ってくれた。東京の街について聞くと彼は、「東京はとてもいい街だね。街はきれいだし、風景も良いので綺麗な写真が撮れる。もっと観光したかったな」と名残惜しそう。そのコメントを聞いて、今回、アジア初開催となったiStockalypseは大成功だったと、密着取材した筆者は確信した。