ここでは、IDF 2010の展示会場(IDFではShowCaseと呼ぶ)のIntelブースを中心にレポートを行う。
ShowCase会場は、IDFが開催されたMoscone Westの1階にある。ここには、Intelのブース、サードパーティのブースがあり、テーマ別の場所も用意されているテーマ別の場所は、Intelやサードパーティのブースが混在しているが、Intelの既存のサービスや製品を紹介するブースも多い。
例年この会場で、おもしろいのは研究開発の展示だ。セッションなどでも一部が紹介されるほか、今年のように開催前日にもデモが行われることがある。IDFとは別に研究開発を披露するイベントもあるが、来場者の数からいえば、IDFのほうが多く、Intelの研究者たちも張り切っているように見える。
研究テーマは、比較的よく発表されるような半導体レーザーを使ったものから、パソコン向けのちょっとしたアイディアのようなものまで雑多である。
フォトニクス
Intelは、半導体レーザーや光変調器、ディテクタなどの研究開発にも力をいれている。プロセッサの速度が向上し、信号の周波数が上がってしまうと、銅などの金属導体に信号を通すことがだんだんと難しくなっていく。というより、信号を高速で伝達するためにさまざまな工夫が必要となり、そうなると、電気を光に変換して送り受けするのとコスト的にも変わらなくなってしまうからだ。また、光を使うことで、より高速化できる余地が生まれる。Intelは半導体メーカーであり、チップ間インターコネクトなどを考えると、送信受信には、CPUやチップセットなどと同じダイに集積できる半導体がが必要になる。すでに光ファイバーを使った通信技術や機器間接続技術はあるが、チップに別部品を接続するといった構成では、Intelが使う意味がない。そういうわけで、プロセッサなどと同じダイに集積できるような技術を開発しているわけだ。
今回は、先頃発表した半導体レーザーを使う送信モジュール、受信モジュールを展示。まだ試作の段階で、すぐにでも製品に組み込まれるものではないが、ここ数年の発表をみていると順調に光による信号伝達の実用化に進んでいるようである。
Intelが試作した半導体レーザーによる送信モジュールと受信モジュール。このプロトタイプでは50Gbit/secの伝送が可能であることを示した(既発表済み)。4つのレーザー光を同時に使い各12.5Gbit/secでの送信が可能。将来的にはレーザー光を増やし合計の転送速度を向上させる予定 |
NVDC
現在のノートPCでは、バッテリを装備し、ACで利用するときにはバッテリを充電しつつACアダプタからの電力供給を受ける。しかし、今後、さまざまな電力源、たとえば太陽電池や燃料電池などが利用可能になったとき、いろいな選択肢があった方がいい。この研究では、複数の電力ソースを利用する方法を研究するものだ。そのために、バッテリと充電回路などの関係を変えてある。
外部には、ACアダプタ以外の電力源を接続でき、たとえば太陽電池や燃料電池をつないで動作させることができるようになるのだという。
アプリケーションとの強調動作によるQOSの実現
3GやWiFi、WiMAXといった無線技術は、接続とうい点で手間がいらず簡単なのだが、環境などにより、通信状態が変化してしまうという欠点がある。これは、具体的には通信速度の変化として現れるため、通信のクオリティが保てない可能性がある。たとえば、音声の通信では、一定時間内にデータが到達できないと音声が途切れてしまうという問題がある。これに対して、ファイルのダウンロードやメールの送信は、通信速度の変化があっても問題がない。
こうした通信のクオリティを保つことをQOS(Quality of Service)制御という。この研究は、通信部分が現在の通信状態などを通知する機能を提供し、アプリケーションは、これを利用して自分が提供しているサービスに応じて送受信するデータを制御することを目指すもの。このためにMobile Smart APIを提唱するという。このAPIは、アプリケーションが通信状態を把握するともとに、通信側がアプリケーションの特性を理解するために使われる。
こうしたやり方を目指すのは,今後、さまざまな通信方式が登場するだろうし、その実現方法もさまざまになる可能性があるので、APIを定めて、アプリケーション側は1つのAPIに対応するだけで制御を可能にしようというもの。
デモでは、WiMAXの伝送をエミュレートして、その伝送状態を変化させ、アプリケーション側の対応の有無での音声などの再生を行うもの。制御を行うと、これまで通信状態が悪いときに途切れていた音声が途切れなくなる。
WiMAX通信と通信アプリケーションの連携の例。Mobile SMART APIを通してアプリケーションと通信機器側がコミュニケートし、通信状態やアプリケーションの特性を理解する |
画面左下の櫛形のグラフが通信状態を表し、定期的に通信状態が悪くなる。制御を行うことで、送信されたた音声が途切れることなく、再生できるようになる |
クラウドレンダリング
最近はクラウドが流行だが、この研究は、3Dのレンダリングをネットワークの先にあるクラウド側で行い、手前にあるクライアント側で表示するという技術を研究するもの。高精細なグラフックスが非力な携帯電話のようなマシンでも利用可能になるという。クラウドであるとする理由の1つは、レンダリングを複数のサーバで分担して行うように最初から構成してある点。ユーザー数やグラフィックスの内容などによりサーバを追加していくだけで、単位時間あたりのレンダリング速度を向上できるという。デモでは100万ポリゴンのシャンデリアの画像などを表示。マウス操作で簡単に動くことを示した。
アレイ配置したプロセッサによる並列処理
Lalabee自体の製品化はストップしてしまったようだが、同様の構成を取る多数のプロセッサをメッシュに配置したコンピュータの研究はまだ続けられている。ここでは、20個のCPUノードをメッシュで接続。うち1つをメモリ制御に、1つをシステム制御に使い、ノードへのタスクの割り当て方法と処理性能を研究する。いくつかの割り当てアルゴリズムにより、計算処理(マンデルブロート集合の描画)の実行がどれだけ効率的になるのかを探る。
4つの割り当て方法による処理時間の違い。左下はシングルスレッド,左上と右下は、マルチスレッドだが、タスクの割り当てが固定的なもの。右上は、タスクを負荷分散するように割り当てるアルゴリズムを使ったもので、一番はやく計算が終了する |
システムは、20個のCPUノードをメッシュ状に配置。どのようなプロセッサなのかと聞くと「LaLabeeのと同じ」とのこと |
Tunnel Creek(Atom E600)用IOH
今回正式発表となったAtom E600プロセッサは、IO拡張用にPCI Expressを持ち、外部のIOHと接続が可能。PCI Expressは公開されている仕様であるため、サードパーティがIOHを開発することも可能だ。これは、そのサードパーティとして紹介された沖電気のML7223V。メディアフォン用に開発されたIOHだ。音声用の回路やギガビットイーサーネットなどを搭載している。E600を使うデバイスは、CPUとIOHのほかに電力管理チップやクロックジェネレータチップを用意する程度で開発が可能だという。