米Hewlett-Packard (HP)は28日(現地時間)、米Palmの約12億ドルの買収で合意したと発表した。近年、PC市場でトップ企業に返り咲くとともに、エンタープライズ市場での存在感をさらに高めつつあるHPだが、Palm買収の狙いは何か、発表同日に行われた電話会議での質疑応答のやり取りから迫ってみよう。
現在のPalmは、「webOS」というスマートフォン向けOSをベースに、同OSを搭載したスマートフォン製品「Palm Pre」「Palm Pixi」を販売している。webOSはLinuxをコアに、ユーザーインタフェースの部分を作り込んだ構造を持った点で特徴がある。
Palm OSの資産はすでに日本のACCESSに売却済みであり、いまは初期のPalmから培われたハードウェア開発技術とこの新OSを基盤に、立て直しを図っていた状態だ。とはいえ今日のスマートフォン市場はiPhone、Android、BlackBerryといった強豪らが激しいシェア争いを繰り広げる激戦地となっており、赤字続きですでに疲弊していたPalmにとって、この情勢を覆し、開発を継続していくだけの体力がなかったのが現実だ。
webOSとHPの規模/財務上の安定性を組み合わせる
米HPパーソナルシステム部門(PSG)バイスプレジデントのTodd Bradley氏は今回の買収について「巨大で収益性が高く、成長中の市場にHPが成功するためのチャンスだ。またwebOSとHPの規模と財務上の安定性が組み合わさることで、大きなメリットを生み出す」とwebOSの技術を評価しつつ、現在Palmが直面している問題がHPの買収で解決できる点を強調する。
一方でHPは、DECからCompaqと一連の買収の流れの中で継承されてきたPDA開発プロジェクトを昇華させた製品「iPAQ」でスマートフォン市場へと参入しているが、一部ビジネスユーザーを除いて製品が市場に浸透しているとはいい難い状況だ。今回されたPalmでさえスマートフォン市場でのシェアは数%程度で、Windows MobileをサポートしたiPAQはさらに厳しい状態にあるといえる。台湾系メーカーをはじめ、近年では米DellなどのPCメーカーもスマートフォン市場への参入を狙っている。特にDellは、旧Motorolaのメンバーを引き抜いて、長年にわたってスマートフォン開発プロジェクトを推進していた経緯もあり、HPのPalm買収は手早く市場シェアを獲得し、その技術を発展させるための戦略ともいえる。
Bradley氏はPalmの製品の属性について「コンシューマ寄り」と評価しており、今日のスマートフォンのほとんどはコンシューマ市場を中心に展開している点を指摘する。そのうえで、webOSといった技術を今後医療や教育分野でのタブレット(同氏は「slate」と表現している)に展開していくことで、市場を拡大するとともに、新しい展望が開けるのではないかとしている。
選択肢が多いほうが、ユーザーにとっても利益
記者会見のQ&Aでは「なぜAndroidではなくwebOSなのか?」というテーマが話題となった。多くの人間が同様の疑問を持っており、「実はHPはwebOSには興味がなく、PalmのIPなど既存資産だけが目当てなのでは?」という意見さえある。
だがBradley氏によれば、スマートフォン市場はまだ初期段階の未成熟な状態にあり、ベンダー自身がOS技術を持つのは別に不思議な話ではないと説明する。最終的に選択肢が多いほうが、ユーザーにとっても利益となるという考えだ。実際、IntelとNokiaは「MeeGo」という独自のLinuxプラットフォームを推進しており、携帯電話市場で急浮上したSamsungも「bada」という独自プラットフォームに力を注ぎつつある。「選択肢はAndroidだけではない」というのがHPからの回答かもしれない。
今回の話題を通じて1つ明らかになったのは、ITシステムの世界ですでにPCが主力から外れ、数あるプラットフォームの1つに過ぎないという状態が進展しつつあることだ。メーカーや関連ベンダーはスマートフォンを含む、成長中の新市場へと注力しつつあり、タブレットブームもそうした過程で現出してきたものだと考えられる。ここでの主役はAndroidをはじめとした組み込みLinuxの派生品、あるいは同市場に向けてカスタマイズされた独自プラットフォームの数々であり、シェア獲得を狙って各社がしのぎを削り合う群雄割拠の時代が到来しようとしている。