不揮発性メモリの将来像

基調講演の2件目では、「BeingAMC」のStefan Lai氏が「Non-Volatile Memory Technologies: The Quest for Ever Lower Cost」と題して不揮発性メモリの将来を展望した(講演番号1.2)。Lai氏は以前、Intelで不揮発性メモリの研究開発責任者を務めており、不揮発性メモリのエンジニアリングコミュニティでは著名な研究者だ。

Lai氏は不揮発性メモリの主役であるフラッシュメモリを最初に取り上げた。最初のフラッシュメモリは1984年のIEDMで舛岡富士雄氏(当時は東芝、現在は日本ユニサンティスエレクトロニクス最高技術責任者)によって提案された。当初のフラッシュメモリは3層多結晶シリコン技術を使い、回路構成はNOR型だった。そしてIntelがトンネル酸化膜によるフラッシュメモリを1988年に初めて製品化したと述べた。

翌年の1989年のIEDMには、舛岡氏がNAND型のフラッシュメモリを発表した。そしてSamsung ElectronicsのKim氏が最先端プロセスでNAND型フラッシュメモリ量産することに決めたのが、記憶容量当たりのコストの急速な低下と普及をもたらした。

フラッシュメモリの微細化限界はまだ見えていない。22nm世代は液浸ArFリソグラフィとダブルパターニングの組み合わせで乗り切る。ただし、メモリセル当たりの電荷量の低減は避けられない。電荷量が少なくなることは大きな問題で、マルチレベルセル(MLC)がシングルレベルセル(SLC)よりも早く、限界に達するとの見通しを述べていた。

限界を超える方法の1つは、多層化(マルチレイヤ)だとした。メモリアレイ層を積み重ねることで記憶容量を増やす。マルチレイヤに向けた候補は抵抗変化を利用した素子だとして、3種類の候補を挙げた。

候補の1つはPCM(Phase Change Memory)である。カルコゲナイド合金の相変化に伴う抵抗変化をデータの記憶に利用する。512Mビットと大きな記憶容量のチップがすでに試作されており、有力な候補といえる。書き換え寿命は10の10乗回を得ており、書き換え時間は数十ns~数百nsと短い。またMLCの動作も学会では報告されている。

もう1つはRRAM(Resistive Random Access Memory)である。酸化物の相変化による抵抗変化をデータ記憶に利用する。書き換えサイクルは1000回~1万回くらい。大容量アレイはまだ報告されていないという。

最後はPMC(Programmable Metallization Cell)である。固体電解質中で金属イオンが電界によって移動し、2端子電極間で電気伝導経路を形成する現象を利用する。2Mビットのテストチップが試作されている。書き換え寿命は10の6乗回を超える。

これら3つの候補の中では、Lai氏は個人的にはPCMを選ぶと述べていた。PCMはRAMと外部記憶の両方に利用できることから、応用の可能性がいくつか考えられるとした。例えばPCMとDRAMバッファを組み合わせるメモリサブシステムである。システムのOSによってメモリマッピングとPCMの書き換え回数平準化を実行する。また異種の不揮発性メモリをマルチレイヤ化した1チップメモリの構想を述べていた。SSD(Solid State Drive)を3層で構成し、RAMを1層で構成する。SSD層は物理的には8Gバイト/層で、4ビット/セルによって合計で96Gバイトを記憶する。RAM層は8Gバイトの記憶容量を備える。全体は4層構成、104Gバイトとなる。実現の可能性はともかくとして、夢のある講演だった。