アフリカの小村にピーナッツバター作りに長けた女性が住んでいる。数万円の資金があれば、材料のピーナッツを大量に購入して、小規模なビジネスをすぐにでも始められる。だが彼女は日々の生活にも窮する状態で、数万円を貯める余裕はない。このような途上国で起業のチャンスを果たせないでいる人たちと、出資を希望する個人を結ぶKiva.orgという団体がある。インターネット経由で25ドル(約2800円)から出資できる。先進国において25ドルは、ムダ使いを切りつめて支援しようと思えるような金額だ。そんな人が数人集まれば、途上国にスモールビジネスが1つ誕生する。

以前は世界中を旅行したり、知り合いにボランティア従事者でもいなければ、途上国で投資を求める人たちの存在など知り得なかった。それが今では日本や米国にいながらネットを通じて、途上国で起業を希望する人たちの意見を聞き、直接コミュニケーションをしながら起業を支援できる。Kivaはこれまで途上国の54,000人以上の起業家と、出資を希望する約300,000人の個人を結びつけてきた。これを可能にしたのは途上国にも広がり始めた"パーソナル"コンピュータであり、インターネット、そしてアイディアだ。ビジョンを持ってテクノロジを活用すれば、Kivaのように大きな成長を生み出せる。

米カルフォルニア州サンフランシスコで、Intelの開発者向けイベント「Intel Developer Forum(IDF) Fall 2008」が始まった。オープニングの基調講演に登場したのは同社会長のCraig Barrett氏。ただし紹介役を務めたPat Gelsinger氏はBarrett氏を"会長"ではなく、"IT産業大使"と紹介した。同氏は今、世界各地を訪問しながらテクノロジを浸透させる橋渡し役を担っている。その経験から感じ取った今日の問題と、テクノロジをソリューションに変える可能性が基調講演の内容だった。

ソリューションが求められている分野としてBarrett氏が挙げたのは、教育、経済開発、医療、環境の4つ。このうち教育はイノベーションを生み出す環境の基盤になる。外から一時的なソリューションが持ち込まれるより、内から育まれた方が根付くという考えから、同氏は年間30カ国以上を訪問し、教育環境を改善する取り組みに努めている。「金銭的な投資はソリューションではない、問題を解決する優れた人材が必要なのだ」というのが同氏の持論だ。

Intel会長のCraig Barrett氏。「イノベーションをかき立てる」が講演のタイトル

教育の改善に意欲的な世界中の国々に比べて、米国では公立学校の教師不足の問題が悪化するばかり。「世界で唯一、教育を重視する姿勢が見られないのが、この国だ」と自国に厳しいコメントを残した

技術デモとして、カーネギーメロン大学の学生だったJohnny Lee氏が登場し、Wiiリモコンとデジタルペンを使ったホワイトボード・システムを披露した。低コストで効果的なプレゼンテーションが可能になる。同システムはデモ動画がYouTubeで話題になり、昨年12月にソフトウエアのコードを公開して以来、ダウンロード数が600,000回を超えているそうだ。

赤外線LEDを先端につけた自作のデジタルペンを説明するJohnny Lee氏

Wiiリモコンでペン先端の赤外線LEDをトラッキング。白い平面がホワイトボードに早変わり

手書きで物理シミュレーションプログラムを操作

経済開発では、Kiva.orgを設立したMatt Flannery氏が世界規模の個人投資ネットワークのインパクトを説明

米国の医療コストは年間2兆ドル。しかも来年にかけて10%の増加が見込まれる。Barrett氏によると、その金額は米国のイラク派兵コストや原油価格高騰の増加分を上回るという。しかもコストダウンにテクノロジが有効に使われていない。その様を同氏は「病院はメインフレームである」とたとえ、パソコン革命をいかに持ち込むかを今後の課題とした。テクノロジの応用例として、Groove Media and Technology(GMT)のMiguel Angarita医師がバーコードをプリントした医療IDカードのデモを行った。携帯電話のカメラでカードのバーコードを読み取り、緊急時に必要な医療履歴にアクセスして見せた。低コストで迅速に、正確な情報を医師が共有できる。

倒れ伏した患者(Barrett氏)から医療IDカードを受け取るAngarita医師

携帯電話でカードのバーコードを読み取り、医療データにアクセス

環境については消費電力削減やリサイクルなど、ハイテク業界は問題対策に積極的だ。その二酸化炭素排出量は世界全体のわずか2%にとどまっている。このようにハイテク産業に根付く環境対策への投資は、残りの98%にも伝播しようとしている。例えばUPSはGPSと特殊なスケジューリングソフトを導入し、配送トラックの走行距離を300万マイル/月も削減した。

2008年のIntel Science Talent Searchで入賞したBrian McCarthyさんが、ソーラーセル技術に利用可能な新しいプラスチック素材に興味を持った経緯を説明

テクノロジソリューションのアイディア創出を支援する「INSPIRE・EMPOWER Challenge」

最後にBarrett氏は、教育、医療、経済開発、環境の4分野を対象にしたテクノロジ・ソリューションのアイディアコンテスト「INSPIRE・EMPOWER Challenge」を発表した。各分野にそれぞれ100,000ドルの賞金が設定されており、優秀なアイディアを実現する基金に利用される。