ムーブメントの耐衝撃性を高めた「ハイブリッドマウント構造」
──「ハイブリッドマウント構造」とは、一言で言うと?
水津考(以下、水津)「落下などによる衝撃でムーブメントのパーツは破損したり、ズレたりします。新しく採用したこの構造は、軽量な樹脂パーツと強度のあるメタルパーツの組み合わせや形状、配置、重量バランスなどによって、ムーブメントそのものの耐衝撃性、耐久性を向上させたものです」
──カシオで耐衝撃性といえば、G-SHOCKがおなじみですが。
水津「G-SHOCKはもともと外装ケースでムーブメントを保護するという構造で、中身の耐衝撃性はあまり考慮されていませんでした。外装に頼った耐衝撃構造です。しかし最近は、ムーブメントそのものから耐衝撃構造を取り入れて、中身から強くしていくという考えに変わってきました。
カシオでは開発当初から、歯車から何からすべて樹脂で作って、できるだけ安価なものを提供しようという思想でやってきました。しかしここ十年来は、だんだん精度とか品質のほうに目が行くようになり、そこから歯車も強度があるメタルを採用するようになってきています。歯車に関していえば、樹脂とメタルのハイブリッド構造は、これ以前のOCEANUSからすでに採用しています」
──では、今回の「ハイブリッドマウント構造」で特に変わった点というのはなんですか?
水津「なんといってもメタル製ピンの採用です。このピンは、輪列の裏側にある基板を固定している基板位置決めピンですが、時計の部品の中ではもっとも重い基板や電池を支えています。従来は、樹脂で一体成形して作っていたのですが、横から衝撃が加わると、機種によってはどうしても折れてしまうという問題がありました。しかも一体化して作ると、補修がきかないことがわかり、今回メタルのピンを採用したのです。
実は今回の3針モデルでは、ピンが文字板も串刺しに貫通しています。ソーラーウオッチの文字板はプラスチックですが、時計の中では非常に重い部品なのです。そんな文字板の重量がサイドからかかると、文字板を留めているピンが折れてしまうため、この文字板位置決めピンもメタル化しました」
──メタルは何を使っているんですか?
水津「『SK』と呼ばれる炭素工具鋼です。焼入れして強度を増した鉄ですね。歯車は加工しやすいよう真鍮を使っています。個々の部品でいえば、樹脂よりメタルのほうが強度があります。そこで針のついたシャフトは、すべてメタルを採用しました。さらに、歯車自体の破損を防ぐために、歯車軸を太くしました。針抜けについては、G-SHOCKの針の取り付け技術も使って、さらに抜けにくくしています」
──G-SHOCKの針の取り付け技術とは?
水津「針はふつう針本体に直接開けた穴でシャフトに固定しますが、穴径にバラツキが出やすく、ある針は硬く締まり、又ある針は抜けやすくなります。G-SHOCKの場合は、厚みのある『袴(はかま) 』という部品に針の本体を固定しています。袴をつけると穴径の精度が上がり、バラツキを減らして針抜けを防げます。実際に、社内の実験でも針が抜けるということはありませんでした」