東京ビッグサイトで開催中のワイヤレスジャパン 2008の基調講演で、ソフトバンクモバイルの松本徹三副社長がモバイル通信の将来像と同社の戦略について語った。松本副社長は、日本の携帯市場のビジネスモデルを大枠では認めつつ、既存のモデルとは異なるiPhoneについての考えも示した。

ソフトバンクモバイル・松本徹三副社長

ソフトバンクモバイルは、2006年に英Vodafoneから国内事業を買収、携帯電話事業に参入した。「1兆7,000億円以上をつぎ込んだ」(松本副社長)という大規模な買収劇だったが、これによってソフトバンクグループは「未開拓の市場」(同)だったモバイルネット環境を獲得。実際、携帯事業の収益はグループ内で大きな比重を占めるようになっており、「(買収の)決断は成功だった」と松本副社長。

2.M@収益の大きな柱となっている携帯事業

一般的に日本の携帯市場は欧米に比べて特殊だといわれている。それは携帯電話の企画、販売、流通を通信事業者がコントロールしているという点だ。欧州では端末メーカー「Nokiaの成功が際だって」(同)おり、販売店でもNokiaの影響力が強く、キャリアの影響力は相対的に低いという。

日本ではキャリアがメーカーから端末を買い上げ大きな力を発揮しており、携帯事業者にならなければモバイルネットビジネスで主導権を握れないと松本副社長。こうして手に入れた携帯事業者で、松本副社長は「とにかくユーザーにバリューを提供する」と強調。これはサービス、そのサービスを動かす端末、それを支えるネットワークの3つが一体となってバリューを提供するのだという。これが「1つでも欠けたらできない(バリューを提供できない)」のだそうだ。

それぞれが三位一体となってユーザーへのバリューを提供する

松本副社長によれば、欧米の携帯事業者はAppleのiPhoneを大きな脅威だと思っているのだという。欧州では伝統的にNokiaが強く、サービスもNokiaが提供してきた。これを携帯事業者は脅威だと感じていたのだが、Nokiaでも10数年かけて築いたこの地位を、Appleは1つの端末だけで実現しようとしているからだ。

サービス、端末、ネットワークの3つがもたらす「統合的なメリットがユーザーの価値」(同)であるが、例えばネットワークの品質はどの事業者でも変わらず、端末としてiPhoneがユーザーに求められているならAppleがこの中で「支配権を持つ」(同)ことになる。日本のように携帯事業者が流通まで支配していると、「さすがのNokiaも支配できない」(同)わけで、こうした競争は世界で起きているという。

ただ松本副社長は、「まずユーザーの求めるもの、ユーザーへのバリューを最大化すること」が重要だと説く。その中でどれだけの収益が得られるかということが重要なのだという。「iPhoneは誰よりも早く(ユーザーが求めるものを)作った。ユーザーが求めるのであれば、それを(販売・流通などで)サポートするのは当然」だという。ユーザーの価値を犠牲にして収益を目指すのは「順序を勘違い」(同)していると話す。

日本の携帯事業者のビジネスモデルは、これまでは事業者が端末メーカーから端末を買い上げ、それを安くユーザーに売り、通信料から少しずつその分を回収するというものだったが、後発だったソフトバンクには端末代金で損をしてもあとで少しずつ回収するというやり方を変え、端末を割賦販売にしてその分通信料を下げるという方法を導入した。

これは「2年前の当時は一大決断」(同)であり、「相当な抵抗があった」(同)が、結果として他の事業者も始めたことで業界には定着した。ただ、サービス、端末、ネットワークのそれぞれの事業者が「バラバラにやっていては良くない。オペレーター(携帯事業者)がコーディネーターとなる」(同)というモデルは今後も変わらないようだ。

しかし、国内携帯市場のビジネスモデルは特殊ともいわれるが、「欧米のオペレーターは日本のモデルをうらやんでいる」(同)のだという。日本のモデルは「問題もあるが、このエコシステムは大枠でなかなかいい」と松本副社長はいう。ただし、「悲しいかな日本の端末は世界では売れない。iPhoneが日本のメーカーから出れば本当に良かった」(同)。