ワイヤレス関連の総合展示会「ワイヤレスジャパン 2008」が22日から東京ビッグサイトで開幕した。ここでは初日の講演の中から総務省総合通信基盤局電波部の渡辺克也電波政策課長の講演をお届けする。渡辺課長は、携帯電話で100Mbps強のブロードバンド環境を実現する3.9G、さらに高速な4Gに向けた総務省の電波政策などについて解説した。

総務省総合通信基盤局電波部電波政策課長・渡辺克也氏

渡辺課長は、国内の電波利用と総務省の電波政策に関して話し、まず冒頭に「国内の電波利用は格段に伸びている」と指摘する。日本の民間の電波利用が始まったのは1950年代だが、当時は全国に無線局が5,118局しかなく、当時の電電公社(現NTT)が自動車電話を開始した1985年に渡辺課長は、「2000年に自動車電話は450万台が使われる」と予測していたそうだ。

携帯電話の普及の伸び

しかし、実際に2000年になると自動車電話の代わりに携帯電話が「一けた違う数」(渡辺課長)で使われるようになり、無線局も1億局を超えた。「電波をなくしたら生活できるのかというとクエスチョンマークがつく」(同)ほど、電波が生活やビジネスに密着して使われるようになっている。

こうした中、総務省では「4つの大きな柱」を元に電波政策を進めている。1つめが次世代携帯電話やWiMAXなど無線のブロードバンド化を図っていくというもの。2つめがブロードバンドゼロ地域の解消で、有線が引き込みにくい地域に無線のブロードバンド環境を構築していく。3つめが高度道路交通システム(ITS)の構築による交通事故死者の削減。4つめが次世代情報家電・ホームネットワークの構築だ。

国内の電波利用は急拡大。今後は、次世代携帯電話などの新たな電波利用のニーズに対応していく政策を打つ

その中で携帯電話は、「黒電話(音声通話)の代わりではなく、情報マシン化している」と渡辺課長。携帯電話はその発展の中でデータ通信、ゲーム、音楽などの機能を取り込み、「今後はこれがさらに高度になってくる」(同)。4G(第4世代携帯電話)へと向かっている昨今の現状を踏まえ、渡辺氏は「(モバイル関連)マーケット抜きには語れない」と指摘する。

これまでの携帯電話は、転送速度を向上させるという「単純な作業」(同)を進めてきたが、今後携帯データ通信のトラフィックは約4倍にふくれあがると予測され、そうなると「今のネットワークシステムはパンクしてしまう」(同)。それに対しては「(道路の)車線を増やすような方策が必要」(同)なのだという。

モバイルコンテンツ・モバイルコマースの市場は9,000億円強。最新の調査では1兆円を突破した

携帯電話のトラフィック動向。10年には07年の約4倍にも達する

ただ、単純に車線を増やす(転送速度を向上させる)だけでいいのか。これまでの固定系のネットを見てみると「車線を増やすと車の大きさが倍になる(データの容量が大きくなる)」(同)傾向にあり、モバイル関連市場の高まりでゲーム、音楽、動画といった大容量コンテンツが増えるからだ。

こうした中で総務省では、周波数の再編や電波利用をより迅速・柔軟に行うための制度を設けるなどの電波政策を実施。10年をめどにした下り速度最大100Mbpsを超える3.9G(LTE/UMB)携帯電話の登場に向けて準備を進めているところだという。

3G以降の携帯電話の高度化の流れ。現在は、3.9Gの標準化が進められているところ

3.9Gの標準化自体は今年の12月ごろに完了予定だが、渡辺課長は単純な仕様要件だけでなく利用展開、利用イメージ、それを実現するために必要なネットワークの構築と行ったことも検討材料として考えるべきだという。

これらの点に関して総務省では今年4月から、総務省の諮問機関である情報通信審議会の中にある技術分科会携帯電話等周波数有効利用方策委員会で審議を行っており、7月末には中間報告として「基本コンセプト」を決め、年内をめどに具体的な技術的な条件を定める予定だ。

3.9Gでは携帯電話網がIP化され、既存のインフラが大きく変更されると渡辺課長。通信料金は下がるが、ベンダーはインフラを作り替える必要があり、「携帯版NGNに相当する」(同)。このネットワークをベースにして4Gが構築されていくわけだが、世界中のベンダーがトライアルや開発を進めており、海外勢の攻勢に対して「日本の国際競争力を高める上でもポイントになる」(同)ことから、総務省では今年中に技術要件を定め、09年にはそれを制度化していく方針だ。「今後5~10年のモバイルネットワークをどう作るかは、3.9Gの構築にかかっている」(渡辺課長)。

3.9Gの上に4Gを重ねる形になり、3.9Gの構築が4Gへとつながっていく

3.9Gに対する海外の取り組み

携帯電話以外の電波政策の柱の1つであるITSに関しては、すでに普及が進んでいるETCやVICSに加え、車車間通信や車載レーダーなどによって安全運転支援システムを構築。12年までに交通事故死者を5,000人以下にすることが政府目標となっている。

ITSで利用される電波メディアは数多い

政府のロードマップ

そのためには車車間通信による見通しの悪い状況での注意喚起や、路車間通信による一時停止標識の警告など、さまざまなITSの技術を駆使していく。今年は東京・お台場で大規模な実験を行い、10年までには実用化していきたい考えだ。11年には地上デジタル放送の完全移行によってアナログテレビ向けの周波数帯が開放されるが、このうちのUHF帯の一部をITS用に割り当てることも行う予定だ。

総務省による実証実験の例。例えば見通しの悪い交差点で、車車間通信によって近くの車を発見でき、出会い頭の衝突事故が防げる

お台場での実験では、車車間、路車間といったさまざまな実験を行う

ミリ波レーダーも重要。通常のレーダーは精度が1m程度であったのに対し、UWBレーダーでは20cm程度まで精度を向上させられる

地デジ移行後の周波数帯の跡地にITSや携帯などを割り当てる

渡辺課長は、電波にまつわるいろいろな産業や電波を使った生活の高度化に向けて、総務省が旗振り役となって進めていきたいと意気込みを語った。