ITだけでは優位性を確保するのは難しいのか?

ガートナー リサーチ バイス プレジデント兼 最上級アナリスト ロイ・シュルテ氏

基調講演に続いて、ジェネラル・セッションでは「ITはビジネス要件にどれだけ応えられるか - 過去、現在、そして未来」と題し、ガートナー リサーチ バイス プレジデント兼 最上級アナリスト ロイ・シュルテ氏が登壇した。

人類の進化の歴史を振り返ると、狩猟採集時代には、進化の促進要因は二足歩行だった。次の農業時代には、それは動物の労働力、灌漑、階層的な社会組織となり、さらに産業時代には蒸気エンジン、電力、交換可能な部品などに変わった。そして現代、情報時代のそれは、トランジスタ、WWW、SOAなど、つまりITになっている。

シュルテ氏は「いまや、ITだけでは優位性を確保するのは難しいのではないかとの考え方がある」と話す。たとえば、銀行が初めてATMを設置し始めた頃には、ATMを持たない銀行は、著しく競争力をそがれることになったが、現在では、ATMのない銀行などない。では、同様に「誰もが等しく利用できるITでは企業は差別化できないのか。けっしてそんなことはない」(同)。「いかにして技術を利用するか、さまざまな方法論がある。ITをうまく活用することで利点を得られるのは明らか」(同)だからだ。

俊敏性、仮想企業、無遅延型企業、CEP用いた状況認識、この4戦略が必須

いま、企業に対しては、競争だけでなく、グローバル化、数多くの規制、ビジネスのペースの加速化といった、「外部からの圧力」がかかっている。製品やサービスの価格、プロセスの変更は頻繁になり、事業部門の壁を越えた処理の最適化、処理時間の短縮、より適確な意思決定--などが求められる。

これらの課題への対策としては、まず、俊敏性が必要になる。「アプリケーションを有機的な存在に、いわば、生物のようにする。そのためには、正にSOAの基本といえる、カプセル化、コンポーネント化することが重要になる。ビジネス要件の激しい変化に対応できるよう、アプリケーションは変更可能になるよう構築する」(同)ことが一つ目の戦略だ。

グローバル化や顧客へのサービスの質的向上にともない、1企業の事業分野だけではなく、企業間の垣根さえ飛び越えた対応、処理が必要になっているいま、仮想企業の発想で対処していくべきであると、シュルテ氏は主張する。各所ごとで多岐にわたるITをつなぐための「システムとシステムの考え方が、いま、重要になっている」

近年、ビジネスの工程は多方面で、非常に加速化が進行している。たとえば、かつては郵便で3日かかっていたものが、いまでは、電子メールで一瞬にして届く。こうした卑近な例にはじまり、財務状態の追跡、データウェアハウスの更新、貿易決済などのようなものまで、所要時間はきわめて短くなっている。ここでは、イベント駆動型アーキテクチャー(EDA:Event Driven Architecture)が対策になるという。EDAは、処理を依頼して、その結果が戻ってくる、いわゆるリクエスト・リプライ方式と異なり、どのコンポーネントも、結果が戻ってくるまで待機しなくても済むため、処理が効率化されるといわれる。このような対応ができる無遅延型企業が強い競争力を得ることになる。

従来型のOLTP、GPS、バーコード、RFIDなど多様なセンサーのネットワーク、Webや種々のネットワークなど、企業をとりまくITの環境には、数え切れないほどの情報が満ちている。「大企業は1秒あたり、1万~1,000万のビジネス・イベントを処理する」(同)ようになっている。これらを上手に見極め、より適確な意思決定をするためには、どうすればよいか。シュルテ氏は、この問いへの回答として複合イベント処理(CEP:Complex Event Processing)を挙げる。CEPは、分散型システムから送られてくる膨大な量のデータやイベントを照合し、一定のパターンや傾向を識別することが可能になる技術だ。これを利用することにより、企業は状況を認識し、迅速な意思決定、ひいては行動に結びつけることができるという。

俊敏性、仮想企業、無遅延型企業、さらに、CEPを用いた状況認識。「この4つの戦略を、どれか一つだけではなく、すべてを連携させながら事業を展開していくべき」とシュルテ氏は語った。

SOAという用語は1996年に、ガートナーが初めて使った。それ以来、12年、SOAが多くの企業で導入されるようになってきたが、その反動もみられるという。あまりに楽観的過ぎる人々がおり、「SOAに投資はしてきたが、思ったほどの効果が上がらない。SOAには問題がある、と失望してしまう」(同)からだ。シュルテ氏は「BAM (Business Activity Monitoring) のように、利点がすぐに理解され、投資の見返りがすぐに出る技術もあるが、SOAは異なる」と述べ、SOAは長期的な価値をもたらすものであることを強調、短期的過ぎる見方や、拙速主義に警鐘を鳴らしている。