しかし、水町氏は日本が欧米式の手法をそのまま取り入れて成功するためには、労働組合のあり方にかかっていると分析する。「企業を超えて存在する欧米の労組に対して、日本の労組は企業の内部にあるのが特徴。経営者と親密な日本の労組では、社会的基盤が異なる欧米のやり方をそのまま転嫁してもうまくいかない」という。そこで水町氏は、もうひとつの手法として集団的コミュニケーションによる問題の発見と解決、予防を行う解決策を紹介。これは欧州では"Social dialog"、アメリカでは"Collective voice"と呼ばれているやり方で、労働者から吸い上げた意見を集めると同時に、モラルややる気を高めていくもので、コミュニケーションが最も重要となる。
企業がワークライフバランスの実現するには、経営者のトップが問題意識を持っていることも重要だ。「経営者の意志を社員が体感することが大事。できれば社長が責任者としてワークライフバランスを推進していくことが望ましい」と水町氏。また、社員の労働環境の調査の方法について「従業員の本音を聞きだすために外部の機関が中立的に行うのが理想。辞めた人に訊くというのもかなり有効な手段。ただ、人事が聞き取りを行うのはあまり効果的ではない」と提唱する。そして、組織全体として解決していくためには会社全体の調整を図ることが不可欠で、なるべく多くを対象に聞き取りを行うことが必要だ。「女性の問題 = 男性の問題、非正社員の問題 = 正社員の問題というように、どちらか一方だけの問題ではない」と水町氏は説明する。
さらに、企業におけるワークライフバランスの実現には、プロセスの見える化も重要だという。水町氏は「現場に権限を持たせ、上がそれを支援する。それを見えるかたちで示すことで、モチベーションやモラルの向上につなげる」と話し、労働者と企業双方にとって風通しのよい職場環境を目指すことがワークライフバランス実現のカギとなることを強調した。
セミナーでは、そのほか東京労働局労働基準部労働時間課長の神田隆氏が挨拶を行ったほか、2008年3月に改正された「労働時間等見直しガイドライン」について、同課労働時間設定改善指導官の新名準一郎氏が説明を行った。
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「それぞれの会社にはそれぞれの事情があるが、5年後、10年後の目標値として取り組んでいけばワークライフバランスの実現は可能になるはず」と挨拶した、東京労働局労働基準部労働時間課長の神田隆氏 |
2008年3月に改正された「労働時間等見直しガイドライン」のポイントを解説した、東京労働局労働基準部労働時間課・労働時間設定改善指導官の新名準一郎氏 |