リナックスファウンデーション・ジャパンが、Linuxカーネル開発コミュニティの変遷について分析した「カーネル開発の歴史」というレポートを公開した。我々はカーネルの新機能や修正箇所にばかり関心が向きがちだが、ときには別の観点から眺めるのも意義深いこと。今回は、Linuxカーネルについて、技術的・機能的な側面からではなく、その進化を支えてきた個人や企業という"舞台裏"にスポットライトを当ててみよう。

Linuxカーネルの開発に参加している技術者の数は、明らかに増加傾向にある。下図に示すとおり、2005年3月リリースのバージョン2.6.11時点には483人だったものが、2008年1月のバージョン2.6.24時点では1,057人。わずか3年足らずの間に、開発者数は約2.2倍に増えた計算だ。

開発を支援する企業も約2.6倍に増えている。興味深いのは、企業数が (2.6.13→2.6.14の期間は例外として) 順調に増えていることで、営利企業におけるLinuxカーネル開発支援のメリットがなんらかの形で存在し、それが認知されつつある様子がうかがえる。

Linuxカーネルの開発に貢献した人の数(横軸はカーネルバージョン/リリース年月)

Linuxカーネルの開発に貢献した企業の数(横軸はカーネルバージョン/リリース年月)

企業によるLinuxカーネル開発の支援は、開発者を雇用 / 金銭的に援助するという間接的な方法で行われる。当文書ではカーネル開発支援企業について、開発者が投稿したソースコードに 1) 企業のemailアドレスを使用し、2) 企業の支援の表示がある場合と定義し、さらに 3) 開発者に問い合わせることで、開発者が特定の企業に支援されているかどうかを判定している。

ちなみに、カーネル2.6.11 - 2.6.24の間に発生した変更点のうち、企業でトップはRed Hatの9,351件。比率にして11.2%と、2位のNovell (7,385件 / 8.9%) を大きく引き離している。この2つの企業は、Fedora/RHELとSuSEという人気Linuxディストリビューションを擁するため、ある程度の量の貢献は予想できるところだ。

文書では、企業の業種に注目し、カーネル開発を支援する理由を推測している。たとえば、Red HatとNovell、MontaVistaなどのディストリビュータについては、Linuxを強化することに明確な意思を持っており、対顧客おいては競合するものの、Linuxカーネルの改良に関しては協力関係にあると評価している。IBMやIntel、SGI、MIPS、Freescale、HPといったプロセッサ/ハードウェアベンダについては、それら企業の製品でLinuxがよりよく動作する (たとえばハードウェアサポート強化) ことにより、製品の付加価値が増し企業利益につながるからだと分析している。

家電/AV機器メーカーに関しても、カーネル開発への参加はLinuxを将来にわたり製品の重要な部品とすることへの保障となるため、と説明している。実際、家電や携帯電話における"Linuxという部品の共有化"は急ピッチで進められているため、今後はそれらの企業に属す開発者の参加が増えていくはずだ。

Linuxカーネル v2.6.11 - 2.6.24 におけるソースコード行数の推移 (「カーネル開発の歴史」より)