通信事業者の多くが事業の多角化を重要な取り組みとしている。KDDIは、効果的なデータ活用を事業多角化の課題に位置付け、 Snowflakeを土台とする「次世代DMP」と「データクリーンルーム」などに取り組みを進めている。
今回、同社のマーケティング本部で、シニアエキスパートとして次世代マーケティング変革プロジェクトのリードを務める山口求氏に、同社のデータ活用について聞いた
次世代DMPプロジェクトの目的は「データサイロの解消」
KDDIは1984年創業から複数の通信会社が合併して現在に至る。そのため、さまざまなサービスを提供していく中でデータストレージが点在するようになった。そのような状況から、以前からデータにアクセスしようとすると手間とコストがかかるという課題があった。
「複数のサービスを組み合わせて複合的な分析をしたいと思ったとき、点在しているデータを統合するETLのようなプロセスが必要だった。どこにどのデータがあるのかを知っている人材でないとデータ分析ができない状態だった」と山口氏は語る。このままデータのサイロ状態が続くと、データ分析が属人的になるという危機感もあった。
こうした課題が生まれた背景には、同社のビジネスが変化していることも影響している。KDDIは「サテライトグロース戦略」として、通信と中核に金融などさまざまなサービスを組み合わせてシナジーを生む成長戦略を描いている。当然、データも通信だけではなく、他の事業を含めて顧客を理解しなければならない。
「これまでは自分たちがアクセスできるデータの範囲内でビジネスをみがいていけばよかった。しかし現在は、いろいろなサービスを組み合わせて複合的に攻めていく必要性が出てきている」と山口氏。
この課題を解決するため、KDDIは「次世代DMP(Data Management Platform)」という名称のプロジェクトを立ち上げ、山口氏がプロジェクトマネージャーとして率いることになった。
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KDDIのデータコラボレーション構想における次世代DMPの位置づけ
ランニングコスト、開発コストを抑えられるSnowflake
次世代DMPプロジェクトを進める中で、KDDIはSnowflakeを導入することを決定した。Snowflakeを選んだ理由について、「論理的にサイロを超えたコラボレーションができるから」と、山口氏は説明する。
例えば、新しいシステムを導入してクラウドやオンプレのサーバに保存されているデータを統合し、データのサイロを解消するとなると大きな基盤が必要となり、構築までのプロセスや維持のコストなどがのしかかる。対するSnowflakeは、仮想的にデータを統合し、使いやすいデータウェアハウスを1つ持つという感覚だ。これにより、データ統合にかかるランニングコスト、開発コストを抑えることができる。この2つのコストが抑えられる点は、「選定にあたって大きな要因だった」と山口氏は明かす。
それだけではない。マルチクラウドでのデータシェアリング、クエリを投げてデータが返ってくるまでの時間など、「いくつかあるデータ統合のやり方の中で、よりコストを抑えながら、求めるデータにアクセスして分析ができる点」を評価したという。
「データクリーンルーム」で外部と安全なデータ連携を実現
次世代DMPプロジェクトと並行して、KDDIは「データクリーンルーム」の構築にも着手した。DMPがKDDI本社とグループ会社のデータ統合を主な目的としているのに対し、データクリーンルームはグループ外のパートナー企業とデータをつなぐことを主な目的とする。
データクリーンルームについて、山口氏は「企業が持つお客様の大切なデータを、安全性を担保し、個人情報保護法などの法規制に準拠した形で高度につなぐための基盤」と説明する。
データクリーンルームのプロジェクトは2023年4月に立ち上げ、同年6月には第1号としてAbemaTVとのデータ連携によるマーケティング強化の取り組みを発表し、同9月にはPoCを実施した。現在は、フェーズに分けて進めていた重要な機能開発を終え、さまざまな業界の企業と話し合いを進めているところだ。
データクリーンルームの重要性について、山口氏は次のように説明する。
「これまで外部企業と協業するとなると、単なる相互送客になるケースが多かった。データをつなげることでさまざまな可能性が生まれ、これまでより高度な協業ができる。それを支えるデータクリーンルームのような仕組みは、事業戦略から見て重要」
技術的には、Snowflakeを基盤としつつ、KDDIが複数社と共同開発した独自かつ先進的なセキュリティ機能も加えている。その例としては、「秘密計算」と呼ばれるデータの秘匿化の手法や差分プライバシーなどの技術がある。「かなり新しいテクノロジーを採用している」と山口氏。「論文レベルの新しい手法であり、その導入には簡単ではなかった」としながらも、特に重要になるセキュリティではKDDI総合研究所セキュリティ部門などのセキュリティ専門家にも入ってもらい「盤石なドリームチームを作っている」 (山口氏)という。
技術とセットで進める人材育成
データ活用のための技術的な基盤づくりとともに、KDDIではデータ人材の育成も進めている。
その特徴を山口氏は、「優れた制度の用意」「ボトムアップ的な社員の動き」の2つを挙げる。
同社が提供している制度が、デジタル人材育成プログラム「KDU(KDDI DX University)」だ。これはデータ分析スキルなどが学べるもので、23年度末時点で約1万人の社員が受講しているとのこと。
ボトムアップ的な動きの例が、社員主導のデータ分析コミュニティ活動だ。山口氏自身もBIツールのコミュニティを主催しているという。
Snowflake導入から1~2年が経過したが、これまでを振り返って、「期待していた効果が得られている」と山口氏は評価する。「データを統合して分析できるようになり、データクリーンルームもSnowflakeの機能によって得られている効果が定量化できている」(同氏)
山口氏は、Snowflakeに対して、データマーケットプレイスで提供されているデータが拡充されることへの期待も語っていた。