ウェハ拡散ファウンダリの創始者となった華潤上華
このように、中国半導体業界の全体的な状況を概観すると、主要メーカー間の買収合併やリストラクチャリングが非常に活発におこなわれている様子が見て取れる。以下ではさらに、中国半導体産業の主要プレイヤーである華潤上華科技(以下、華潤上華)と首鋼日電電子(以下、首鋼NEC)の動向をみていく。
香港で上場しているチップメーカーの華潤上華は2007年9月、Hynix SemiconductorとST Microelectronicsが共同出資で立ち上げたメモリチップメーカーである無錫海力士-意法半導体から8インチの生産ラインの設備を引き継いだ後、再び活発に動き出している。中国国内主要メディアの報道によると、華潤上華を持ち株会社とする企業集団である華潤グループは、中国の大手鉄鋼グループの1つである首都鉄鋼(以下、首鋼)とNECとの間で設立された合弁会社である首鋼NEC のほとんどの発行株式を買収し、同株式を華潤上華に注入する意向のようだ。
華潤上華は、1997年からウェハ拡散(シリコンウェハ上に回路を作りこむ前工程) を行う中国初の開放的ファウンダリ工場を作り、操業を始めた。その意味で同社は、中国におけるウェハ拡散ファウンダリビジネスモデルの創始者といえる。同社は現在、江蘇省無錫市と北京市に6インチ3-0.35マイクロメートルのウェハ拡散ファウンダリ工場を持っている。
収益力不足で親会社が撤退した首鋼NEC
1991年に設立された首鋼NECは、主に半導体のウェハ拡散と組立・テスト事業を行っており、6インチウェハ生産ライン1本と組立・テストラインを持っている。首鋼NECは中国国内では第6位の半導体生産メーカーで、昨年の売上高は18億5,400万元(約285億5,000万円)であった。一方、華潤上華は、2006年の営業利益が1億 1,430万ドル(約131億4,400万円)だった。
業界関係者によれば、華潤上華は首鋼NECの株式の大部分を取得後、華潤グループの傘下企業である無錫華潤晶芯半導体が持つ6インチ拡散ラインの設備を華潤上華に統合。これにより華潤上華は国内最大の6インチチップメーカーとなり、世界のアナログ回路チップ市場で一定のシェアをとることを目指している。
中国半導体業界協会半導体産業研究センターのシニアアナリストである李珂氏は、首鋼NECの親会社である首鋼が半導体産業から退こうとしている理由として次の2点を挙げている。第1は、設立このかた、首鋼NECの成長スピードが遅く、親会社に持続性のある収益をもたらしてこなかったこと。第2は、引き続き企業を大きくするにはより多くの投資が必要だが、鉄鋼を主要事業とする親会社の首鋼は半導体企業の運営では経験に欠け、持続的に巨額の資金を投下するには、リスクが余りにも大きいと考えられたからであるとしている。
80年代末から90年代初めにそれぞれ設立された首鋼NECと華潤上華の前身である無錫華晶電子集団は、いずれも同時代の中国半導体業界で重要な位置を占めたことがある。しかし、世界の半導体市場が急速に成長拡大するなか、この2社はまったく異なる運命をたどった。
無錫華晶電子集団の後身である華潤上華グループは、海外の投資家を引き入れることに成功、内部からの体制改革を通じて市場対応を見事に成し遂げ、世界の半導体産業が復活する局面で、事業を拡大する勢いを見せている。一方の首鋼NECは、合弁の中国側である首鋼が持ち株を失ってからNECエレクトロニクスの加工拠点の1つとなったが、ウェハ製造面においてはきわめて発展が遅く、主に組立・テスト業務に頼った経営を続けているのが実態だ。