2002年度から2006年度までの携帯電話各社のシェア推移をみると、NTTドコモは58.1、56.6、56.1、55.7、54.4。KDDI(ツーカーを含む)は23.5、25.1、26.6、27.7、29.1、ソフトバンク(06年4月まではボーダフォン、2003年10月まではJフォン)は18.4、18.3、17.3、16.6、16.4となる。直近の5年度で、それほど大きく動いてはいない。MNPを導入しようとの機運のきっかけの一つは、ユーザーの利便性を向上させることとともに、携帯電話事業者間の競争の促進が期待されること、だった。

総務省は、MNPを導入することが適当かどうかの調査、研究を行い、学識経験者、消費者団体、当事者である通信事業者などとともに論議し、その結果、MNPの導入が決まった。研究の結果報告として、同省は「利用者はより自由に携帯電話事業者間を変更できることから、事業者の競争が促進され、更なる料金の引き下げや、料金以外にも長期利用が有利となるようなサービスの充実、機種変更の際の費用の引き下げ等が行われると考えられ、結果として、その効果は番号ポータビリティを利用する者のみでなく携帯電話利用者全体に及ぶこととなる。また、サービスの高度化等により、技術革新が進展し、我が国の産業の国際競争力の向上が期待できる」としていた。

実際にMNPが始まった今、ソフトバンクが制限つきながら音声定額制を打ち出したり、端末割賦販売に着手したり、NTTドコモが1端末で2つの番号とメールアドレスを使い分けられる2in1を開始したりというのは、MNP効果といえるだろう。だが、ここまでのところ、事前の想定よりMNPの利用率が低い。割引きプランの契約の節目となる3月にもそれほど利用は増大しなかった。ただし、MNPは今後長く継続するものであり、いずれかの事業者からユーザーを吸引できるだけの強い集客力をもった要素がこれから先出てくれば、利用動向が変わる可能性はある。

NTTドコモは、ドコモ2.0を打ち出し、変化を強調している。夏野剛 執行役員 プロダクト&サービス本部 マルチメディアサービス部長は、「2in1は簡単に同じようなことができないサービスで、これはドコモに来なければ使えない。囲い込み効果は相当に高い」と自信を示すが、夏向けの新商品は5機種だった。昨年来、各社が大量の製品群と機能、「○○でNO1」を競い合うようなってから、いまや競合他社より時間的に早く、すべての新製品を発表するのは得策でないというようにもみえる。「70Xシリーズもあるし、機種数を減らすわけではない」(夏野執行役員)との意向であり、2段構えの姿勢がうかがえる。

ソフトバンクは、この夏商戦、機能、世界一の薄さ、料金プランなど、秘密兵器をぶつける手法ではなく、「かっこよさ」を前面に据えた。MNPで先行するKDDIの高橋誠 執行役員コンシューマ事業統轄本部長は「この夏、MNPをもう一度揺り動かしたい」と語るが、今夏の製品群では防災への対応を大きな柱とするなど、これまでのKDDIとは微妙な差が感じられる。3社が破壊力の大きい「弾丸」を打ち合い、再度、競争が激しくなるのは秋以降かもしれない。

日本の携帯電話業界は、ほぼ3事業者だけが参加し、シェアがすっかり固定化している。ここにMNPが設けられ、イー・モバイルが新たに加わる。無論、いくらMNPがあっても、順位を変動させるのはそれほど容易ではない。しかし、MNPでのKDDI独走、NTTドコモ苦戦、ソフトバンク善戦との構図は、競争促進の活性剤として、MNPがまずは一石を投じたといえそうだ。