ソフトバンク代表取締役の孫正義氏

ソフトバンクの2006年度は、携帯電話に始まり携帯電話に終わった、といえるだろう。同社の2006年度決算の発表会見の配布資料の表紙には「ボーダフォンの買収は成功だったのか?」と記され、ページをめくると大きな文字で「Yes!」とあった。会見の冒頭、孫正義社長は「人生にもいろいろ転機があるが、企業にもある。2006年4月のボーダフォン買収は、ソフトバンクの今後の姿にとって非常に大きな転機だったのではないか」と述べた。

2006年度の同社連結売上高は2兆5,442億円で、昨年度の2.29倍だ。営業利益は2,710億円、同じく4.35倍となっているが、この実績は、携帯電話事業が加わったことが大きく貢献している。部門別にみると、この事業を担うソフトバンクモバイルが属する「移動体通信」の売上高は1兆4,308億円、営業利益は1,557億円で、全体に占める比率はそれぞれ56.2%、57.5%だ。「移動体通信」にソフトバンクテレコムなどの「固定通信」、ADSL事業などの「BBインフラ」の業績をあわせると、売上高では79.5%、営業利益では66.3%となる。同社に「通信大手の」という枕詞がつくようになったのは、ADSL事業の規模が大きくなってからのことだが、この数字をみれば、まさに名実ともに「通信大手」ということになる。

ボーダフォン買収で売上高は大きく伸びた

携帯電話事業の効果で大幅な営業増益

通信関連の売上高は全体の8割に近い

営業利益の6割弱を携帯電話事業が稼いでいる

孫社長は「ボーダフォンを買収する以前から、もともと、携帯電話事業にはいつの日にか何らかの形で必ず参入すると明言してきたが、もし(買収ではなく)独自展開していたら、携帯電話事業は何年も赤字だったかもしれない。(ADSL事業を始めた際の)Yahoo! BBの場合の『生みの苦しみ』に比べ、ボーダフォン買収ははるかに良い選択だった。正しい方向だ」

買収にあたってはさまざまな不安が指摘されていた。巨額の資金をまかなえるのか。携帯電話の3大事業者中、最も競争力が弱かったボーダフォンを買って、その収益性はどうなるのか。ユーザーの乗換を促進する携帯電話の番号ポータビリティー(MNP)の荒波に耐えられるのか。とりわけ、ソフトバンクというブランドにどれだけ力があるか。

「沈み行く船を買ってしまう恐れはあった」と孫社長は振り返る。2005年度第4四半期、当時のボーダフォンの3G解約率は3%台にまで上っていた。「MNPの開始で、解約率は一気に上がるだろうといわれた。ほとんどあらゆる調査で、MNPでは不利だと指摘され、場合によっては3割減るというものまであった」。報道機関、アナリストなど多くが否定的にみていた。