ソフトバンク 孫正義社長

MNPでは最も厳しい戦いを強いられる――そうみられていたのはソフトバンクだった。同社の携帯電話事業部門の前身である旧ボーダフォンへの、業界内外からの見方を雑駁に概括すれば、次のようになる。

まずKDDIは、NTTドコモからできる限りシェアを奪取することが主目的で、ボーダフォンなど眼中になく、NTTドコモは対KDDIで苦戦を予想しており、その分をボーダフォンから取る――

新規参入の事業者が、すこしでも多くユーザーを獲得しようとするなら、既存事業者の「最弱」の部分に浸食しようとするのは自明の理。要するに、「上」「下」双方から挟み撃ちされる。これが「草刈り場」になる、といわれた所以だ。

結局、ソフトバンクがボーダフォンを傘下に収めることとなったが、買収後の評価も、それ以前と比べ、さして大きく変わったわけではなかった。ただ、大量の新端末発表などの効果で、それまでまるで気にしていなかった競合各社が警戒感を抱きだした。しかし、MNPの下馬評が楽観的なものに変わるまでには至っていなかった。

ところが、実際の「戦果」は、事前の見通しの大勢を覆した。

2006年度の同社連結決算をみると、売上高は2兆5,442億円で、昨年度の2.29倍だ。営業利益は2,710億円、同じく4.35倍となった。携帯電話事業部門の売上高は1兆4,308億円、営業利益は1,557億円だ。旧ボーダフォンの2005年度の営業利益は763億円であり、この分野の業績を伸長させた。ソフトバンクの携帯電話累計契約数は1,607万に達し、ボーダフォン買収時点の1,522万に比べ、85万の純増となった。2006年度中は、MNPでは「流出」超過だったが、それ以外での増加幅が大きくなり、純増数も伸びた。

ソフトバンク孫正義社長は「MNPにより、契約数は劇的に減るのではないかといわれた。事業者を変えると番号が変わるということは、他社への移行の障壁だったわけだ。しかし、結果は純増することができた」と述べている。

ただ、同社はMNP開始直後、受付システムで障害が発生、新規契約の受付業務を一時停止するなどの事態となった。また、当初、MNP対策の目玉としての料金政策がかなり複雑であったことから、ユーザーが戸惑い、他社からも批判を浴びるなど、足並みが乱れ、課題を残した。