この1年で状況は大きく変わった。昨年、同社は携帯電話事業での成長戦略の中軸として「3G(第3世代携帯電話)ネットワークの増強」「3G端末の充実」「コンテンツ強化」「営業体制/ブランディング強化」を前面に据えた。

この1年、同社はこれら4本柱に沿った施策を続々と進めた。3G基地局数は2万1,000を3万1,000にまで増設した。2007年度上期には4万6,000局とする予定だ。2005年度下期には12機種だった端末は2006年度下期には39機種となった。コンテンツでは、ポータルサイトとして絶大な集客力とブランド力を誇るヤフーとの連携を強化、2006年7月にはヤフーへのリンクをトップに置き、10月には、ワンタッチでサイトに直結する「Y!」ボタンを端末上に配置した。営業面では、量販店への浸透を前進させるとともに「ソフトバンクショップ」を217店増やし、全国で2,075店とした。

さらに「隠し球」として、新たな料金プランを打ち出した。MNP開始とほぼ同時の2006年10月、同社加入者同士の通話を1時-21時まで基本的に無料とするなどの「予想外割」を発表したが、「例外」や、さまざまな条件が「わかりにくい」と批判を受け、2007年1月には付帯条項を極力なくした、月額基本使用料980円の「ホワイトプラン」を、3月には「ホワイトプラン」の基本料にさらに980円付加することで、他社端末への通話料を半額とする「Wホワイト」を設けた。

こうした戦略の結果、「ホワイトプラン」加入者数はすでに400万を超え、契約者全体に占める3G比率は20%から51.1%に跳ね上がった。同解約率は2006年度第4四半期には、1.5%を割ったという。3Gユーザーは、インターネットのサービスなどををよく利用し、ARPU(1端末あたりの月間平均収入)が高いことから、3G比率をより向上させることが、旧ボーダフォン時代以来の大きな課題だった。ただ、割引サービス、無料キャンペーンの影響で、2006年度第4四半期の総合ARPUは前期比350円減の5,210円だったが「データARPUは同50円増の1,380円」(孫社長)となった。

同社の携帯電話の累計契約数はこの4月で1,607万に達し、ボーダフォン買収時点の1,522万に比べ、85万の純増で「着実に積み上げている」(同)。また、旧ボーダフォンの2005年度の営業利益は763億円に留まったが、同社の営業を承継したソフトバンクモバイルのそれは1,346億円となった。「3つの通信会社(ソフトバンクモバイル、固定通信のソフトバンクテレコム、ADSLサービスのソフトバンクBB)の相乗効果(ネットワークインフラの効率化、顧客基盤の相互活用)により、コストを抑え、割賦販売で解約率が下がり、販売手数料は1ユーザーあたり2万9,000円に減った。それぞれの面でバランスよく改善した」(同)ことが背景にある。

「買収後」の結果はプラスだった

孫社長は「携帯電話事業は赤字になるのでは、との懸念があったが、MNPというある意味最大の危機も乗り切った」として、「良い結果だった」と総括している。とはいえ、先行する2社との差は依然大きい。2006年度末の市場シェアはNTTドコモが54.4%、KDDIは29.1%だ。MNPでの顧客争奪はこれからも続くわけで「長い戦いになる」(同)。競争はさらに厳しくなりそうだ。今後、各社とも、どんな奇襲、秘策を出してくるのかわからない。これらの動きに対しソフトバンクは「グループの総力戦で実績をあげていきたい。これからが本当の力の見せ所だと認識している」(同)とみている。