ノートPC最大の弱点は、液晶ディスプレイだ。満員電車でぐいぐい押されようものなら、破損という最悪の事態になりかねない。最近のモバイルノートPCのカタログを見ていると、「耐圧100kgf」「耐圧150kgf」とさながら耐圧競争のように堅牢さをアピールしているが、LOOX Tでは200kgfを達成している。

液晶ディスプレイを収めた天板部分について尋ねると、構造設計を担当したPCデザイン技術部の後藤克一氏は、「よくぞ聞いてくれました」とばかりに金属製の天板を並べ始めた。その裏側にはミステリーサークルのような同心円状の模様が刻まれ、ここにタフさの秘密が隠されているというのだ。

「軽量化のために薄くしたいのですが、強度を落とすわけにはいきません。そこで3年の開発期間をかけ、マグネシウム合金をチクソモールディング加工することで、この同心円状の凹凸を作り、軽量化と堅牢性を両立することに成功しました」

天板裏に掘られた同心円状の凹凸。写真ではわかりづらいが、試行錯誤の中で少しずつ溝の深さを変えている

この凹凸があることで、満員電車で押し潰されても安心という堅牢性が実現できたのだという。「チクソモールディング加工」とは、溶けたマグネシウムをプラスティックのように成型する技術で、必要な部分だけ板厚を変えることができ、細かな凹凸も簡単にできる新しい加工法だ。

「これまでの開発経験から、どの部分に力がかかるかわかっているので、その部分だけ板を厚くしようという発想なのです」(後藤氏)

各社から発売されているモバイルノートPCの中には、1枚の板をプレス加工することで凸凹を作り強度を上げる構造を採用している製品もあるが、強度を確保できる板厚の制約により、軽量化にも制約が出てくるという。その点、チクソモールディング加工なら、必要な部分のみ厚くすることで強度を高めながら軽くすることができるのだそうだ。

円の大きさや場所にも意味があるらしい。

「同心円状に作った溝の深さ、場所、大きさを変え実験を繰り返しながら、最適な大きさや位置、深さを決めました。加工時間が長くなると、溶けたマグネシウムの熱の影響が大きくなるので、加工時間が短くなるようにも大きさや溝の深さを考えています」(後藤氏)

チクソモールディング加工は、軽くてタフなノートパソコンにはメリットが多い加工法だが、同時に一定の品質を保つのが難しい、やっかいな技術でもある。

「温度や湿度、機械の気分次第で材料がうまく流れず、職人的な微妙なチューニングをしないと品質が保てないところが大変なのです。国内で加工していますが、なかなか海外ではここまでの精度と品質では加工できないのではないでしょうか」(遠山氏)

フローティング構造で、液晶パネルをガッチリ守る

衝撃から守る工夫はもうひとつある。液晶パネルをネジ止めせず、緩衝材を挟んで浮かせるフローティング構造を採用している。液晶パネルと本体カバーの間に隙間があることで直接力がかからず、液晶パネルを保護することができる。液晶パネルを止めるフレームを無くしたので軽量化にもつながった。

バックパネルには液晶を支える小さな突起が作られているが、こうした小さな部分も、チクソモールディング加工によって、従来より簡単に加工できるようになった。

写真はディスプレイが収まっている部分を背面から見たところ。手前部分がディスプレイの上部。液晶パネルのモジュールはあえて上部にすることで、下部にあるバックライトの放熱を向上させた