乾燥した時期になると増えだす口周りのトラブルの一つ・口唇炎。「唇付近にできるちょっとした炎症」というふうに考えている人もいるかもしれないが、実はいろいろと厄介な疾患なのだ。

今回は南青山皮膚科 スキンナビクリニックの院長である服部英子医師に口唇炎の症状や原因についてうかがった。

  • 口唇炎の原因や症状、ヘルペスとの違いを医師に聞いた

    口唇炎の原因や症状、ヘルペスとの違いを医師に聞いた

口唇炎とは

口唇炎は口唇の皮膚に炎症が生じ、腫れや亀裂、出血などの病変を生じる病気のことを指す。

口唇炎の症状

口唇炎の主な症状は以下の通り。

  • 唇がカサカサして荒れる
  • 唇の皮がむける
  • 口周りが切れる
  • 口周りがかゆい
  • 唇が腫れる

乾燥が厳しい冬場に口唇炎に悩まされると大変だろう。唇のふちがかゆかったりヒリヒリしたり、あるいは唇の周りが切れて出血したり……。このような状況では、人に会うのもおっくうになるというもの。特に人と会う機会が多い営業職や接客業の人は注意したい疾患と言える。

唇のふちがかゆい、ヒリヒリする……口唇炎の原因

口唇炎の特徴の一つとして、その原因が非常に多岐にわたるという点があげられる。主なものとしては「紫外線」「乾燥」「アトピー」「口紅」「リップ」などがある。さらには歯磨き粉や洗顔料、金属アレルギーの場合は金属製のコップなども原因となりうる。

「冬の時期だとやはり乾燥由来の口唇炎が多いですね。あとは『接触性口唇炎』ということで、口紅やリップのように何か唇に接触している物が原因というケースもあります。また、冬でも意外と紫外線量が多いため、紫外線が原因の口唇炎は通年で起こりえます」

上記のような直接的な原因以外にも、ライフスタイルやクセによって発症する口唇炎もある。以下が一例だ。

■栄養バランスの偏った食事をとっている

ビタミンB2およびB6が不足すると、口唇にかさぶたや皮めくれが発生する「剥離性(はくりせい)口唇炎」を発症する。

■唇をなめる

唇を舌で何度もなめると口唇炎を発症するし、このクセをやめないと発症後の治りも遅くなる。主に子どもによくみられる。

口の水泡なのにヘルペスじゃない? 口唇炎と口唇ヘルペスの違いとは

口唇炎に似た疾患に口唇ヘルペスがある。口唇ヘルペスは、単純ヘルペスウイルスの感染に伴い唇や口の周りに小さな水疱ができる疾患。やや唇の内側部分で発症し、上唇ないしは下唇のいずれかのみに症状が出るケースが多い。水疱以外にも、唇やその周辺の疼痛やかゆみなど口唇炎と似た症状を呈する。

口唇炎も唇全体の炎症や亀裂が主訴となるケースが多いが、唇が腫れることもある。そのため、この腫れをヘルペス特有の水泡と混同してしまう可能性もあるだろう。

この2つは見た目こそ似ているが、治療方針は異なる。特に口唇炎に有効なステロイドの外用薬は、口唇ヘルペスに用いると逆に症状が悪化してしまう。素人判断で口唇炎と決めつけ、市販のステロイド軟こうなどを塗布するのは危険だ。

口唇炎と口唇ヘルペスは症状が出現する場所に微妙な違いがあり、唇全体に症状が見られたら口唇炎、上下いずれかの唇に症状が出ていたらヘルペスの可能性が高い。ただし、上述のようにセルフジャッジは症状悪化のリスクが伴うため、きちんと医療機関を受診しよう。

口唇炎の症状を悪化させる行為

口唇炎は口周りという比較的顔の中でも目立ちやすい箇所にできるせいか、発症した人たちにはある共通点が見られると服部医師は話す。それは「自分で患部をいじること」。唇の皮をめくったり、乾燥した場所をなめてみたり、かさぶたをはがしてみたり……。気持ちはわからないでもないが、こういった行為のせいで症状がいっそう悪化する可能性もある。

「気になって患部をなめてしまったり、自分で唇の皮をむいてしまったりとかはよくありますね。口唇炎になった原因は別にあるでしょうけれど、そこから症状を悪化させる要因となる行為を自分でやってしまうことが、病気の長期化という点にとっては大きいですね」

大半の口唇炎は放置しておいても自然と治癒するが、患部をいじることで返ってその回復の道のりを邪魔してしまう。特に子どもはよくなめてしまいがちであるため、小さな子どもを持つ人は注意深く見守るように。

口唇炎が治らないときの治し方

よほどのことがない限り口角炎は自然と治っていくものの、どうしても人と会う際に気になる……という人もいるだろう。そのようなときは、市販薬を用いて治療にあたろう。

口唇炎は市販薬のリップクリームなどで対処を

薬局やドラッグストアで買えるOTC医薬品として、口唇炎への効能が期待できるリップクリーム(医薬品)が購入可能だ。保湿ができるリップクリームやワセリンなどを併用するのもいいだろう。

それでも治りが遅かったり、症状が悪化したりする場合は皮膚科などを受診した方がよい。だが、複数の原因が考えられるため、「1回の問診で『これが原因です』と診断するのは難しいです」と服部医師は話す。原因を究明するまで、数回の診察・問診を重ねる必要があることを覚えておこう。

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