アトピー性皮膚炎の治療の基本は塗り薬だ

アトピー性皮膚炎といえば、「子どもの疾患」とイメージする人も少なくないだろう。ただ、近年は成人になってアトピーを発症する「大人アトピー」が増えている。

今回は、南青山皮膚科 スキンナビクリニックの院長である服部英子医師に大人アトピーについて伺った。

アトピー発症の原因とは

一般的なアトピー性皮膚炎は、「皮膚が赤くなる」「細かなぶつぶつができる」「肌がかさかさする」などの特徴を伴い、いずれも肌に強いかゆみを感じるようになる。大人・子どもに関係なく、症状がよくなったり悪くなったりを繰り返して、慢性的に経過していく。

仕事などでのストレスもアトピーの原因に

アトピー性皮膚炎になる要因は「環境因子」と「遺伝因子」に大別できる。元来の遺伝因子を持つ人に、ほこりをはじめとするアレルゲン(アレルギーを引き起こすもの)や汗、強い乾燥、ストレスなどの環境因子が加わると発症すると言われている。

「ぜんそくやアレルギー性鼻炎、結膜炎などの既往歴を持っていたり、家族歴(患者の家族や近親者の病歴)があったりする方がアトピー性皮膚炎になることが多い気がします。兄弟・姉妹でもなる子とならない子がいますし、症状に強弱が出るケースもあります」。

症状の出やすい場所が年齢によって異なる点も特徴だ。乳児は顔や頭に出やすく、成長に伴い体の方に移行していく。思春期になると、ひざやひじに出てきて、成人すると比較的上半身に多い傾向があると服部医師は指摘する。

後天性アトピーは大人になってからいきなり発症しない

子どもと大人のアトピー性皮膚炎発症の原理は本質的には一緒だ。バリアー機能が弱く乾燥しやすい肌に、何らかの"負荷"が加わることで症状が出てしまう。その"負荷"は、大人であれば環境変化に伴うストレスや睡眠不足、子どもであればちょっとした風邪などが該当する。

だが、大人になっていきなり発症するというケースは基本的にないというのが通説だ。

「アトピー性皮膚炎は突然発症することはありません。患者の皆さんは『大人になって突然出てきました』と言いますが、よくよく話を聞くと、『そういえば昔、少しここにアトピー性皮膚炎があったかも』という感じで、本人もあまり自覚なく症状が現れなくなっている場合もあります」。

子ども時代に発症すると、思春期の頃によくなってきて、ほとんど目立たない程度にまで症状が治まっているケースもある。だが、就職して生活リズムが崩れるなどすると、今まで治まっていた症状がひどく出てしまい、薬での治療をしないと症状のコントロールがきかなくなるケースがあると服部医師は話す。

大人アトピーは、忘れていた症状が何らかのきっかけでぶり返したことによるものだと考えてよさそうだ。

アトピー性皮膚炎の治療法

アトピー性皮膚炎を完治させるための手段はないため、治療は外用薬と内服薬による対症療法がスタンダードとなる。あまりにもかゆみがひどいときは、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬などを服用するという選択肢もあるが、治療の基本は塗り薬だ。

「塗り薬には保湿薬やステロイド外用薬、タクロリムス外用薬といった塗り薬があるので、肌の状態によってこれらを使い分けます。症状と肌の部位、皮膚の厚さなど複数の要素がからんできますから、ステロイド外用薬も弱い物から強い物まで5つのランクがあります。どのレベルの薬がいいかは、皮膚科で診察してもらう必要があります」。

塗り薬を塗る期間も重要

塗る期間も大事となる。服部医師が危惧するのは、患者の自己判断に伴う症状悪化。多少塗っただけで「もうよくなった」と自ら塗布をストップし、炎症が残っている部分に汗などの刺激が加わり、一気に悪化するケースもありうるからだ。

「私たちのクリニックでは来院当初、1~2週間に1回とかの割合で、『今はこういう状況なので、顔にはこの薬、体にはこの薬をこれぐらい塗ってください』という形で指導しています。そうすると、『こういうときはこの薬をこれぐらい塗ればいい』と患者さんがわかってきますから」。

糖尿病などと同様の慢性疾患のため、アトピー性皮膚炎と向き合うためにはセルフコントロールが肝要となる。万一、大人アトピーになってしまった場合は、しっかりと疾患の特徴を把握して少しでも日常生活を快適に過ごせるようにしよう。

※写真と本文は関係ありません

記事監修: 服部英子(はっとり ひでこ)

東京女子医科大学卒業。皮膚科専門医。日本皮膚科学会、日本レーザー学会、日本臨床皮膚科学会、日本アレルギー学会に所属。大学卒業後に東京女子医科大学病院やJR東京総合病院の皮膚科に勤務した後、2005年より南青山皮膚科 スキンナビクリニックの院長を務める。