創業140年を超える製薬会社として人々の健康に貢献し続けてきた塩野義製薬株式会社では、同社が2030年に実現したいVisionならびにその達成に向けたビジネス変革による新たな成長戦略となるShionogi Transformation Strategy 2030 (STS2030)を2020年に発表。創薬型製薬企業としての強みを活かしながら、「新たなプラットフォームでヘルスケアの未来を創り出す」ためのビジネス変革に取り組んでいます。新しいビジネスの創出に備えてITインフラの整備に着手した同社は、「VMware Cloud Foundation」と「VMware Cloud on AWS」を採用し、ハイブリットクラウドへの移行を開始しました。
ソリューション
10年以上運用してきたプライベート仮想化基盤の老朽化が課題となるなか、ビジネス変革に対応可能なAgilityとScalabilityを確保できるインフラのあるべき姿を検討。オンプレミスとクラウドを適材適所で使い分けるシステムの構築を目指し、クラウドサービスである「VMware Cloud on AWS」と「VMware Cloud Foundation」をベースとしたオンプレミス基盤とのハイブリッドクラウドを採用した。
導入前の課題
- プライベート仮想化基盤の老朽化が進み、オーバーコミットしているほか、最新OSの導入や昨今求められるようなリソースの割り当てが困難
- サポートが終了したレガシーOSが稼働しており、最新バージョンのvSphereへの移行可否が不透明
- クラウドへの移行を検討するにあたっての、製薬業界特有の規制やコスト面の問題
導入効果
- VMware Cloud on AWSの導入により、基盤を最新化しながらレガシーな仮想マシンの保持に成功
- 統合仮想ネットワーク (L2 延伸)を導入し、柔軟性と可搬性を担保
- 20~30%のコスト削減を達成、将来的なクラウドシフトやマルチクラウド化にも対応
塩野義製薬が取り組むHaaSビジネスの推進に不可欠だった、老朽化した既存ITインフラのモダナイズ
塩野義製薬は、「新たなプラットフォームでヘルスケアの未来を創り出す」という2030年ビジョンを実現するべく、創薬ビジネスからHaaS(Healthcare as a Service)ビジネスへの転換を図っています。塩野義製薬DX推進本部 IT&デジタルソリューション部長の中井康司氏は、同社の掲げるビジョンについてこう語ります。
「製薬業界は非常に規制の多い業界です。我々もさまざまな規制を遵守しながら、お客様に価値を感じていただける製品・サービスを提供するための取り組みを続けてきました。その一方で、規制という枠の外で、どのようなビジネスを展開できるのかが大きな課題となっていました。そこで多面的にヘルスケアの領域をカバーするという意味を込めてHaaSモデルへのシフトを加速させるべく、従業員にさまざまなビジネスチャンスを想起してもらうことを目指しています」(中井氏)
HaaS企業への変革に向けた新たなニーズに対応するため、クラウド移行を見据えたITインフラ刷新のプロジェクトが始動しました。全社的なインフラの企画・戦略などを担うグループのリーダーで、本プロジェクトのプロジェクトマネジメントを務めた西村亮平氏は、ITインフラのモダナイゼーションに着手した経緯を振り返ります。
「HaaSビジネスへの転換を進めるうえでは、新ビジネスの検証や準備が行われていきます。それに対してITとして備えるべきなのは、PoCの活発化や、今までの製薬ビジネスでは使ったことがないようなソリューションの活用、これまでになく横断的で大容量のデータの分析などに対応できる、いわばAgilityとScalabilityを確保できるITインフラへの刷新です。では、現状はどうかというと、製薬業界に限らず、エンタープライズのIT環境は硬直化しがちな傾向があり、当社もVMwareのESXi 4/5 ベースのプライベート仮想化基盤を10年以上にわたり運用してきました。既存のレガシーな仮想化基盤を拡張するのは技術的に難しく、最新OSの導入や、求められるリソースの割り当てが柔軟に行えないなど、さまざまな課題が顕在化していました。そこで、オンプレミスやクラウド、SaaSなどを問わず、必要なIT環境を迅速かつ適正コストで提供する、通信効率の高いネットワークと材料データ領域を動的に確保するなど、まさにクラウドのようなシステム要件を満たすためのハイブリッドクラウド化プロジェクトが立ち上がりました」(西村氏)
近年、クラウド利用のコストが下がってきており、既存環境の方が高コストであることが明示できるようになったことも、プロジェクトが始動した要因の1つと西村氏は語ります。
ハイブリッドクラウドを最適解と判断し、VMware Cloud FoundationとVMware Cloud on AWSの導入を決定。複数パートナーとの協働で400台の仮想マシンを新基盤へ移行
HaaSビジネスへの転換を支えるAgilityとScalabilityを備えたITインフラとして、すべてのシステムを一気にクラウドへ移行するのは現実的ではないと判断し、オンプレミス環境とクラウドサービスを併用するハイブリッドクラウドの導入を検討。クラウドサービスであるVMware Cloud on AWSとVMware Cloud Foundationベースのオンプレミス基盤のハイブリッドクラウド環境が採用されました。
「既存のプライベートクラウド仮想化基盤では、400台の仮想サーバが稼働しており、サポートが終了した古いOSも多数動いています。これらを全面的に統廃合してクラウドへとシフトするというアプローチは時間やコストの面で現実的ではありませんでした。また、研究所や工場などでは専用機器との通信のレイテンシーを低く抑える必要があるなど、ローカルで運用する必要があるシステムは今後しばらく残ると考えています。さらにGxPなど、業界特有の法制度にシステムとしても対応しなくてはならず、全面的なクラウド移行は困難と判断し、ローカル環境で行う領域とクラウドで行う領域を切り分けたハイブリッドクラウドでインフラの設計を行いました」(西村氏)
VMware製品で構築された基盤を提供するクラウドサービスには複数の選択肢がありますが、当社はかねてよりAWSを利用していたことも踏まえてVMware Cloud on AWSを採用しました。その決め手として西村氏は、1) 基盤を最新化しながらレガシーの仮想マシンを保持することができる、2) オンプレミスの環境とL2延伸をかけることで柔軟性と可搬性を確保できる、3) クラウドの環境を拡張する、またはクラウドへシフトするなど、現在予測が困難な今後の変化にも柔軟に対応できる、4) 既存環境より20~30%のコスト削減を見込める、という4点を挙げます。
さらに、ヴイエムウェアによる強力なバックアップも採用の大きな要因になったといいます。「ヴイエムウェアのエンジニアは、かなり深いところまでAWSの技術を理解しており、その知見を活かして作り込まれたVMware Cloud on AWSは、400台の仮想マシンを移行するという難易度を考えてもリスクヘッジとして有効な選択肢となりました」(西村氏)
VMware Cloud on AWS導入前は、拠点(オフィスなど)、関西のデータセンター、個別で導入していたAWSのアカウント、研究所、工場のシステムを閉域網サービスでつなぎ、データセンターとAWSの環境とは専用線でつながっているという構成でした。そして今回ハイブリッドクラウドを導入し、データセンター、AWS、研究所の環境を一気通貫で構成しつつ、それらのネットワークも統合仮想ネットワーク(L2延伸)で仮想的に一体化しました。さらに閉域網サービスに関してもクラウドコネクティビティの高いサービスに変更し、今後のマルチクラウド化などの変化にも耐えられるように全面刷新したといいます。
移行作業においてはいくつかの課題に直面したと西村氏は話し、その一例としてサポートが終了しているオンプレミスの仮想化基盤上からの移行を挙げます。これまで標準として約10年にわたり使用してきた環境は、vSphere 4.1とvSphere 5.5のプライベートクラウド仮想化基盤上で400台の仮想マシンが稼働しているという構成でした。この環境を廃止し、オンプレミス基盤用のVMware Cloud FoundationとクラウドサービスのVMware Cloud on AWSを導入して、仮想マシン100台をオンプレミス基盤のvSphere 7.0に移行。仮想マシン300台をVMware Cloud on AWSに移行しました。プライベートクラウド仮想化基盤上で利用していた、vSphere 4.1と5.5はサポートおよびサービスがすでに終了しており、最新のvSphereバージョンへの移行はリスクが高く且つ保証されていません。サードパーティ製のツールの使用も検討しましたが、コスト面などさまざまな要素を考慮し、VMwareのプロフェッショナルサービスが提供する移行ツールを採用することで解決しました。
「具体的には、移行対象の仮想マシンを移行ツールに登録し、オンラインで初回転送と差分転送を行う。その後、最終切り替え時に移行元のvSphere Web Clientで移行対象の仮想マシンをパワーオフ後、最終転送するという手法です。これはダウンタイムの低減に大きく寄与しました。また、計画が非常に立てやすかったというメリットも強く感じています。加えて、vSphere の互換性考慮はとても難しい問題です。移行ツールは、保証がないなりにも技術差異を極力考慮してその差分を可能な限り吸収することができたと感じています。最終的には我々ユーザーが一定のリスクを許容する必要はありますが、保証されないままトライ&エラーや膨大なパターンにもなる検証を繰り返すよりも、精度や安心感は遥かに高いものであるとして採用しました」(西村氏)
いくつかの課題に直面しながらも移行が成功した要因として、VMwareのプロフェッショナルサービスチームと、複数のパートナーとの強力な信頼関係の下、協働で進められたことが非常に大きいと西村氏は話します。
「今回のプロジェクトにおいては、最新バージョンのvSphereへの移行、短期間での完遂、レガシーOSの活用といった課題がありましたが、信頼できるパートナーとの協働によりすべてクリアできました。ヴイエムウェアのプロフェッショナルサービスは、各技術領域に経験豊富なエンジニアがアサインされ、こちらの要望や疑問に対して、ほぼ持ち帰りなしで回答いただきました。スムーズにプロジェクトを進めることができ、感謝しています」(西村氏)
400台の仮想マシンはオンプレミス・VMware Cloud on AWS上で問題なく稼働。今後もHaaSビジネスの実現を支援していく
こうして4か月間で仮想マシン400台の移行を完遂した塩野義製薬のハイブリッドクラウド移行プロジェクト。データセンター(オンプレミス)とクラウドで統合化されたシステムは、大きなトラブルが起こることなく稼働しているといいます。
「我々が感じたシステム面での課題や、VMwareのソリューションを導入されている企業からの改善要求が、網羅的に今後のロードマップに含まれていることを確認できたので、我々とVMwareの見据える方向に大きなズレがないことがわかり安心しました。今後も止まることなく進化を続けていただければと期待しています」(西村氏)
中井氏も、HaaS企業への転換を図り、新たなビジネスの創出を目指すうえで、今回のプロジェクトで得た成果は重要な意味を持つと考えているといいます。
「IT面で過去の負債を抱える企業が多いなか、新しいことに挑戦するためには、どのようなITインフラが必要なのか。今回のプロジェクトでは、その1つの解が見えたと評価しています」(中井氏)
また中井氏は、今回のプロジェクトをフックに、塩野義製薬が技術を活用して新しいことにチャレンジしていく企業であることを社内・社外にアピールし、同じ思いを持つIT人材が参画してくれることを期待しています。
西村氏も「日本のエンタープライズでは導入事例のないソリューションも積極的に導入し、ビジネスに貢献できる効果を追い求めていきたいと考えています」と続けて今後の展望を話します。
ハイブリッドクラウドを選択して、新しいビジネスの土台となるITインフラを構築した塩野義製薬が創り出すHaaSビジネスには、今後も注視していく必要がありそうです。
●業界
PHARMACEUTICALS
●カスタマープロフィール
1878年に創業し、医薬品製造販売を中心にビジネスを展開してきた塩野義製薬株式会社。現在は創薬型製薬企業からHaaS(Healthcare as a Service)企業への変革を進めており、多様なパートナーとの共創により、人々や社会にヘルスケアサービスとしての価値を提供していくことを目指している。
●ユーザーコメント
「AWSの技術を深い部分まで理解しているヴイエムウェアのエンジニアがサポートしてくれたことで、新しいビジネスにも柔軟に対応できるハイブリッドクラウド環境が構築できました。HaaSビジネスへの転換を図っていくうえで重要なプロジェクトになったと実感しています」
――塩野義製薬株式会社
DX推進本部 IT&デジタルソリューション部
IT&デジタルソリューションユニット ITフロンティアグループ長
西村 亮平 氏
●導入製品・サービス
・VMware Cloud on AWS
・VMware Cloud Foundation
・VMware Aria Universal Suite(旧称:vRealize Cloud Universal)
・プロフェッショナルサービス
[PR]提供:ヴイエムウェア